利団部屋

□霞み花 三
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空から光が消えていく。闇に覆われた空は、星さえも隠していた。
団蔵は医療道具やら武器やらをしまいこんだ鞄を背負い、こっそりと部屋からぬけ出た。

真っ黒な瞳は真っ赤に充血し、級友達から何かあったのかと沢山聞かれたが、笑顔で「ちょっと山田先生に叱られちゃった」と答えるだけだった。だって利吉と団蔵の関係を漏らすわけにはいかない。
山田先生の言っていることは、やはり嘘にしか聞こえなかった。利吉が約束を破るはずがない、ないんだ。
もし別れたがっているというのが本当だとしても、人伝いにはしない。利吉はそんな男じゃない。団蔵には確信があった。

だから今日の夜、こっそり脱け出して利吉の下へ向かい本心を確かめようと思った。思い立ったら早いほうがいい。事は急を要する。
皆が寝静まった頃を見計らい、そっと引き戸を開ける。利吉の仕事場所は分からないが、街に出ればそれなりの情報が入ってくるはずだ。利吉から本心を聞くまで忍術学園には戻らないという覚悟が、団蔵にはあった。



「よっと・・・」



入り口の塀近くの木に登り、そのまま飛び降りる。塀を飛び越えるより、こちらの方が楽だから、団蔵は忍術学園を脱け出す際いつもこうしていた。
さてこれからどこへ向かおうという時、目の前に立ちはだかる者がいた。



「山田先生・・・」



やっぱり。団蔵はぎゅ、と拳を握り締めた。
山田先生がこのようなことを想定しないはずがない。来なければ儲かりものだと思っていたが、どうやらそうはいかないらしい。



「何をしている、団蔵。無断外出、しかも夜中になんぞ脱け出しおって。規律違反もいいとこだ」



威圧感が団蔵を襲う。これが一人前のプロの忍者か。明らかにいつもの山田先生とは雰囲気が違う。
一歩、後退しそうになった。怖い。本能でそう感じ取る。
忍者としての経験も力量も差がありすぎる。天と地ほどだ。
だけど怯んでいるわけにはいかない。利吉のもとへ行く。そう決めたんだ。
この威圧感の怖さがなんだ。利吉さんに・・・利吉さんに嫌われる方が百万倍怖い。だから前へ進むんだ。



「・・・利吉さんは・・・、どこですか」
「何を聞いておる。とっとと部屋に戻れ」
「利吉さんはどこですか」
「二度も言わすな。戻」
「利吉さんはどこですか!」



団蔵が吼えた。
恐怖で汗が背中を伝った。でも目だけは真っ直ぐに山田先生を映している。



「・・・分からんやつだな。利吉はお前とは別れたいと、」
「違う!そんなの嘘だ!今から確かめに行くんです!利吉さんに聞きに行くんです!」
「・・・・・・」
「退いてください。利吉さんの居場所が分からないなら、自分で調べます。退いてください、先生、・・・お願いします」



うるる、と涙がこみあげてくる。
「利吉はお前と別れたがっている」と聞いたときの、あの奈落の底へ突き落とされたよな感覚。崖っぷちから海底へと落とされたような感覚。
違う。利吉はいつだって団蔵を照らしてくれた。
会う回数こそ少なかれど、想いはいつもそこへあった。もし自分が奈落の底へ突き落とされそうなときには、光を照らし後ろから手を引いてくれた。海底へと落とされようなものなら、団蔵を抱きしめて陸まで導いてくれた。




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