利団部屋

□てふてふ
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時はいくらか経ち、休み時間終了間際。
学園内の縁側に一人腰をかけ、クスンクスンと鼻をすすっている少年が一人。

―――団蔵である。
木の上で鳥と戯れ、風に豊かな黒髪をなびかせていた団蔵は泣いていた。
頭の上には大きなこぶ。



「あ、いたいた。団蔵くーん!!」



パタパタとこちらへ駆け寄ってくる人物がいる。
困ったように笑いながら。



「利吉さん・・・」



団蔵は涙に濡れた瞳を向け、小さくそう呼んだ。



「父上がゴメンね。その・・こぶは大丈夫かい?」
「あ・・平気・・です。もともと僕が悪いんだし・・・」



団蔵の隣りに腰をかけながら、利吉は腫れているそこを見やった。
こぶはジクジクと熱を持っており、見るからに痛そうである。

何故こうなってしまったのかというと、実は団蔵が落ちてきた直後。
当初の予定では上手く着地する予定だったのだが、思いっきり失敗し利吉の腹に足がクリーンヒット。
重力が乗った団蔵の体重は、その何倍もの衝撃を加える。利吉の腹に団蔵の足がめり込んだときの痛みは計り知れない。

もちろん利吉は地を割かんばかりに大絶叫だ。
するとそこに叫びを聞きつけた、彼の父で一年は組実技担当の山田伝蔵が現れた。
その姿は幼き団蔵にとってはまるで鬼のようなものだっただろう。



「なぁにをしとるんだ、団蔵――――!!!!」



伸びきっている利吉と、上に乗っかっている団蔵、辺りに散らばる木の葉。
現場を見、一瞬にして何があったかを悟る。

そして、そして。
有無を言わさず



「痛――――い!!」



ゲンコツ一発・・・。



「利吉さんは大丈夫なんですか?」
「私?あぁ・・、ふふふ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」



そんなことを思い出し、利吉は苦笑する。
よしよし、と団蔵の頭を擦ってやると照れたような笑みがこぼれた。

―――・・・可愛いな。

ふと、そう思う。
自然に体の内側からにじみ出てきた感情。
自然と目元が細まり、柔らかな視線で団蔵を見つめる。



「ん・・・、くすぐったいです・・」
「もう痛くはない?」
「・・・はい」



くせっ毛のふんわりした長髪が指に絡む。
思いのほかその髪はサラサラで。
石鹸の軽い泡のような香りが鼻をくすぐった。

利吉の掌に団蔵も目を細める。
白い頬は赤い。

日がうらうらと草木を照らすように、優しい温もりが団蔵を包んだ。



「あ・・・、授業が始まる・・」



と、そのとき2人の時間を壊したのは、学園中に響く鐘の音。
忍たまたちはバタバタと教室へ戻ったり、実習場へと向かっていく。

ポツリ、と。
2人の間に寂しげな空気が流れた。



「もう授業の時間か。次は実技?」
「あ、ハイ。山田先生の・・・」
「そっかそっか。じゃあ頑張らないとね」



ハハと軽く微笑むと団蔵もつられて微笑んだ。

そしてゆっくりと手を離す。
何故だろう。離したくなかった。
もっと団蔵に触れていたいと、利吉は思った。
その感情がどこから溢れてくるのか分からなくて。
利吉は、はて、と小首をかしげる。



「怒られないように頑張ります。・・・利吉さんは・・・行っちゃうんですか?」
「・・まだもうちょっといれるよ。そんなに急ぎの用事でもないしね」



団蔵の顔には「寂しい」という感情がありありと出ていた。
置いていかれる子犬よろしく、丸くコロコロした黒い瞳はキュ、と歪んでいる。
その表情を見て、何故か利吉は胸がギュッとした。

私と、同じ気持ちなのか。

利吉もまだ団蔵と一緒にいたかった。
そして離れるのが寂しかった。
急ぎの用ではない、というのも事実だったが、本音としては「まだ行きたくない」といった方が正しいだろう。



「じゃ・・じゃあ授業が終わるまでいて下さい!!」



団蔵は縁側から飛び降り、利吉の前に立つ。



「そ・・その、僕もっと利吉さんとお話がしたいです」



恥ずかしい、と思っているのか、白い頬はまたほんのり赤みをおびて。
利吉の頬もつられて赤くなる。




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