利団部屋

□気になるあの子
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「団蔵遅いぞー」
「兵太夫が早いんだよ、全く。お昼ごはんくらいゆっくり食べさせてよ」



ぱたぱたと聞こえてくる、草むらを駆ける音は。

・・・そう可愛らしい子供のもの。

『兵太夫』と呼ばれた少年の後を追って現れた目的の子供は、急いでご飯を食べたらしくご飯粒がほっぺについている。



「だって貴重なお昼休みだぞ。子供は遊ばなきゃ」
「だからってさ!!今日は海鮮丼定食だったんだぞ!!」
「今度、から揚げ定食おごってやるからさ」
「・・・本当?」
「本当。それに早く食べなきゃ団蔵と遊ぶ時間なくなっちゃうだろ?」



団蔵は海鮮丼をゆっくりと味わえなかったことが、何よりもショックらしい。
一に食欲、二に遊びといったところか。利吉の顔に笑みがこぼれる。



「あ、兵ちゃんと団蔵だ。あの2人最近いっつも一緒だよね」



利吉が2人を眺めていることに気付いたらしいしんべえが言う。



「一緒?仲が良いのかい?」
「う〜ん、まぁ仲が良いには良いんだけどさ」
「兵ちゃんが色々スキンシップ激しいらしいね。この前団蔵が言ってたよ」
「そうそう。『いきなり抱きつくな』って」



3人の言葉に妙に耳を傾けている自分がいた。
子供の戯れか、などでは済まされないような感情で。



「まぁでも兵ちゃんが団蔵をからかいたくなるのも分かるよな。アイツ、からくりに捕まったときの反応面白いもん」



ニシシときり丸が歯を見せて笑う。相変わらず利吉の視線は目の前の2人だ。
団蔵は利吉に気付いていないらしく、兵太夫と楽しそうにおしゃべりをしている。
コロンと丸い黒い目を細め微笑み、兵太夫を見つめる。



「―――・・・」



その光景を平静を装いながら見ていても、何故か心は曇っている。
チクリ、チクリと小さな刺が心臓を刺しているかのよう。
何故だろう、と利吉は心の奥で自問してみるが自答はできず。

今まで感じたことのない感情だ。この3人が誰と話そうが、こんな感情にはならない。「可愛いな、子供だな」と単純な思考で見ることができる。

それが何故か今は働かない。もっと複雑で絡み合う感情が、うねうねと自分の中に蠢いているのが分かった。



「利吉さんどうしたの?ボーっとしてる」
「う〜ん・・・、眠いのかな?ホラ、この天気だし」



さすがフリーの売れっ子忍者。ポーカーフェイスはお手の物。
うっすらと瞼を閉じ、目の前の光景を遮断する。



「そっか、この天気だったら眠くもなるよね。私も寝よう・・」
「えー、じゃぁオレも」
「僕も」



隣りにいた乱太郎達も、利吉と同じように目を伏せる。
この子供達はスグに夢の世界へ行けたらしい、寝息がスゥスゥと聞こえてくる。



「・・・」



・・・それとは反対に、
利吉は目の前の光景を断ち切ったはずなのに、2人の声が、会話が、団蔵の声が耳に響いて。

何故だ、との疑問は解決するはずもなく。


ぐるぐるうずまく胸の痛みとモヤモヤの中、早く寝てしまおうと躍起になっていた。










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