利団部屋
□恋愛自覚
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――団蔵編――
柔らかな光が1年は組の教室に差し込む。
まだ始業時間ではないらしく、ガヤガヤと騒がしい。
ある者は小銭を数え、ある者はまんじゅうを食べ、ある者はなめくじをうっとりと見つめている。
そんな中、窓辺に佇み外を眺める少年が1人。
長い髪がサラリと揺れる。黒いコロコロした瞳が俯く姿はどこか寂しげだ。
「団蔵、何たそがれてんのさ」
「べ、別にたそがれてるわけじゃないよ」
団蔵のもとへ駆け寄り隣りに並ぶは、この学級をたばねる委員長、黒木庄左ヱ門だ。
外に何かあるのかと窓から身を乗り出す。
「・・・外に何かあるわけじゃないよ」
「じゃあ何見てるの?たそがれてるなんて、らしくもないよ」
「だーかーらッ、たそがれてなんかないよ!!・・・ただ、最近利吉さん来ないなーって思ってさ。前はいっぱい来てくれてたのに・・・」
ぼんやりと学園の入り口の方を見やりながら、団蔵は言った。
利吉と最後に話したのは3週間ほど前のような気がする。それまで頻繁に来てくれていただけに、この3週間という期間はそれはそれは長かった。
「山田先生が言ってたんだけど、前に来たあとすぐに長期任務に入ったらしいよ。1ヶ月くらいって言ってたから、あと少しで終わるんだろうけどね」
庄左ヱ門は学園の入り口を見、次に団蔵を見た。
団蔵は「そっか」と言いながら、来てくれることを期待しているかのように門を見ている。
何でこんなに利吉さんに会いたいんだろう。
授業中でも実技中でも、気がつけば利吉のことを考える。
今、何をしているのかな、とか、次に会いに来てくれるのはいつかな、とか。
あえない時間は寂しくて。
会いに行きたい、この学園を抜け出したい、と何度思ったことか。
最後に来てくれたとき、嬉しくてもう独占したい気持ちになった。
だけど利吉が忍たまの憧れの的だということは、知っている。利吉が来ればみんな喜ぶし、尊敬の眼差しで彼をみつめるから。
前までは団蔵も、そんな一員だったと思う。
だけどいつからだろう。
利吉に会うたびに独占欲は強まり、もっともっと会いたいと思ってしまう。
己の醜いワガママが尽きることなく溢れ出て、喉もとまで競りあがってくる。
「行かないで下さい」「次はいつ来るんですか?」なんて、何回言っただろう。
独占欲は強まって。
大好きなは組の仲間なのに、利吉といるシーンを見ると腹が立って来るようにまでなった。
心の中でメラメラと炎が燃える一方、ギュっと胸が痛くなって何度も押さえつけた。
「・・・・」
何だろう、この気持ち。
分からない。
でも、不思議と嫌な感じはなかった。
何に関してでも、『分からないものは気味が悪い』というのが世の常らしいが、この正体不明の感情は全くそういうことは感じられなかった。
むしろ温かくて心地いい。
苦しいけれど、お日様のような、全てを包んでくれる温もりがあった。
「・・・僕も利吉さんには来て欲しいけれど、団蔵は利吉さんのこと大好きなんだね。こうやっていつも待ってるんだもん」
庄左ヱ門がニッコリと笑う。
その言葉にドクン、と心臓が反応した。
『好き』なんて、考えもしなかった感情。
相手は18歳の男の人、しかも山田先生の息子である。
団蔵自身はまだ10歳の子供だから、考えられなかったのも無理はないが。
頬が自然と赤くなる。
あぁ、コレが『恋』っていうのか。
初めて知る感情に、怖いものは何一つなかった。
心地よくて柔らかい、なのにどこか恥ずかしいような、それらがフワリと包み込む。
「・・・団蔵?」
「・・えへへ、ありがと庄左ヱ門。うん、僕、利吉さんのこと好きだ」
「・・・?どうしたんだよ改まって」
ドクン、ドクン。
高鳴る心臓さえも心地いい。
今利吉は任務中だ。ならば無事で早く帰ってきて欲しい。
そう心の中で願った。
太陽だけが、その願いを知っている。
団蔵編・終
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