利団部屋

□分かってます
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『心配していた』なんて、最高の殺し文句だとこの子は知っているのだろうか。
10歳の子供が言うことだから、深読みしてはいけないと思いつつもますます胸が高鳴って。



「団蔵君も元気そうで良かった。父上には怒られてない?」
「そ・・そんな怒られてませんよ!!利吉さん酷い!!」
「アハハ、ごめんごめん」



くしゃりと頭を撫でれば、団蔵は擽ったそうな顔をした。



「休み時間かい?」
「はい。いっぱいお話できますね!!」
「・・・そ、そうだね・・・」



――この子は・・。


団蔵の言葉に、利吉は思わず顔を片手で覆う。
そうでもしないと崩れた表情を悟られてしまうから。
ポーカーフェイスはお手の物だが、団蔵の前では意味をなさない。


そんな、私と話がしたかったみたいに言わないで欲しい。
いつかはこの恋を捨てなければいけないのに、できなくなるじゃないか。


利吉の頬の赤みが酷くなる。
赤くなって、熟れた林檎になってしまう。

団蔵の一言一言に心臓が高鳴るのを抑えられない。



「・・・あ、でもは組の友達はいいのかい?兵太夫君とか」
「兵太夫のこと知ってるんだ、利吉さん。いいのアイツは。今ごろからくり作ってますから。いっつも僕にいきなり抱きついてきて、ホント大変なんですよ・・・」



ハァ、とため息を交えながら言う辺り、兵太夫の団蔵への抱きつき癖は相当なのだろう。


団蔵への恋を自覚してから利吉はいろいろ考えたのだが、兵太夫はどうもこの子へ想いを寄せているような気がしてならない。
気になりだしたら止まらないのだ。考えすぎだと言われたらそれまでなのだけれども。
確か以前、「団蔵と遊ぶ時間なくなっちゃうだろ?」などと言っていたのを覚えている。


何となく、嫉妬心が音をたてた。



「・・・利吉さん?」
「――・・・あ、ゴメン。どうしたんだい?」
「本当に疲れてないですか?僕、マッサージできますよ。父ちゃんのやってたから」
「い・・いやいや、大丈夫だよ!!ちょっと考え事してただけで・・・」



コロンとした瞳が心配そうに利吉を捉える。
本心はマッサージをしてもらいたいのだけれども、体がもつか分からない。
忍者とは言え、体は健康で健全な18歳の青年である。好きな子に体を触られて反応をしないかと言えば、・・・・それは嘘だ。

10歳の団蔵には分からない事情。
だが利吉には重い事情だ。



「そうですか・・」
「またの機会にお願いするよ。それよりホラ、団蔵君の話、聞かせてくれないかい?」
「あ、そうですね!!」



マッサージの腕前を見せたかったらしくシュン・・と悲しそうな顔をしていたが、利吉が話を聞かせて欲しいと言うと、一変、いつもの笑顔に戻った。
「何から話そうかな」などと、目はキラキラ輝いていて。
本当に可愛いな、と思う。




自分の気持ちはどこまで抑えられるのだろうか。
団蔵君が好きだ。
どうしようもなく好きだ。
仏様、父上、どうか私に強き忍びの心を。




団蔵と2人で会話を楽しむ間、利吉はひたすら祈り続けた。











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