利団部屋

□ため口解禁
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「でもさ・・敬語ってなんかよそよそしくない?知らない人って感じでさ」
「・・そう?でも団蔵が敬語だったら違和感あるかも」
「何だよそれ!!」



今、好きな人に実際敬語を遣っている身としては、この言葉は結構ショックだったりする。
再び拳に力を込め、庄左ヱ門をゴツンと1発。



「団蔵はどうなのさ」
「僕?・・・僕は・・」



殴られたところを擦っている庄左ヱ門から、ふと目を逸らす。
見つめる先は、学園の外。

利吉が好きだと分かったことでも、今の自分には大収穫だ。
実際、今日、庄左ヱ門に言われるまで気がつかなかったし、もし言われなかったら気がつけなかったと思う。

だけど好きだと知ってしまえば、利吉にも自分のことを好きになって欲しいと願ってしまう。利吉にもっと近づきたいと願ってしまう。


団蔵と利吉の間には年の差がある。
山田先生の息子だとかは、団蔵自身、気にしたことがない。
それは10歳という幼い年齢もあるが、それよりも『先生の息子』だという事実が霞んでしまうほど利吉が好きだからだ。


8歳差。


10歳の団蔵から見て、18歳の利吉はもう立派な大人である。
忍者としての技量もさることながら、体格も見た目も考え方も大人で。
もちろん団蔵はそんな利吉のことを尊敬していた。

敬語は文字通り、相手に敬意を払うときに遣われるというけれど。

だけど、普段敬語を遣いなれない団蔵には、どうも堅苦しくてならない。
普段どおりの自分ではないようで、むず痒くなる。
好きな人には素をさらけ出したいのに、と団蔵は噛み締める。



「僕は・・・敬語じゃない方がいい。けどさ、もし、・・もしだよ、・・実際じゃないからね。敬語からいきなり普通の口調になるときって、どうやってするのさ」
「どうするって・・・」



利吉とは初めて会話をした時から、ずっと敬語を遣ってきた。
そのとき利吉はいつも通りのおだやかな口調だったけれど、団蔵は緊張してしまって。


憧れの利吉が、今目の前にいる、という事実ばかりに捉われてしまったのだ。


今は緊張なんてものはない。むしろ心地よくて安らぎさえ覚える。
しかしいきなり普通の口調にする、という機会がこれと同じかというとそうでもない。


ただ、恋だと自覚して、好きだと認識して。


もっと近づきたいだけなのだ。
状況を冷静に分析、なんて性にあわない。



「普通に、『ため口したいです』って言うのか?」
「う〜ん・・・、ストレートに・・・かなぁ。何も言わずにいきなり敬語じゃなくなるのもビックリだしね」



再び庄左ヱ門は口元に手を当てる。

団蔵もそうだが、庄左ヱ門もこんな経験はない。推測でしかアドバイスができないのがもどかしい。



「・・・そっか、やっぱ直球でいくしなないよなあ。うん分かった、有難う庄左ヱ門」
「ううん。僕こそろくに相談ものれなくてゴメン」
「何言ってんだよ、変なこと聞いたこっちが悪いんだから謝るなよ」



謝られることなんて庄左ヱ門は一つもしていない。いきなりこんなことを聞かれたら、誰だって困ってしまうのだから、こういうアドバイスができたことだけでも庄左ヱ門は立派なのだ。





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