利団部屋

□罪悪
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想うだけで充分だと思っていた。それ以上は何も望まないと。
なのに、だけど。


自分の欲望がどんなに汚らわしいものか、内に潜む獣を知り怖くなった。



「・・・はぁ・・・」



あんな想像を一瞬でもしてしまった自分がおぞましくて許せない。故に団蔵にあわせる顔もない。
きっと団蔵は無邪気な顔でこちらへよってくるのだろう。何も知らない、純粋な、屈託のない笑顔で。
大人の欲望も汚らわしさも何も知らないのだ。本当に真っ白で綺麗。



「・・・・・・」



本心を言ってしまえば会いたい。
だけどこの邪悪な心を知ってしまった以上、いつどこで爆発するか。
抑えても抑えても溢れてくる。

想いを暴走させて、団蔵を傷つけることだけはしたくなかった。



「あれ、利吉さんじゃないですか」



帰ろうと思った。
ジャリ、と鈍い音を鼓膜に響かせながら身を翻して。
だけどそれを制する声。



「・・・小松田君」
「こんにちはー、山田先生に御用事でしょうか」



利吉が振り向くと、そこには忍術学園事務員小松田秀作の姿が。
もう入門票を出しているあたりが小松田らしい。
笑顔はいつ見ても変わることがなく、それを見ると忍術学園に来たのだと思わされる。



「・・・いや、たまたま通りかかっただけだよ。次の仕事があるからもう行かなきゃ」
「なーんだ、そうなんですか。利吉さんが来たって言えば喜ぶのになあ」



残念そうに入門票を懐にしまいながら言った小松田の言葉に、利吉は苦笑する。



「そんな、僕ももう18ですから父も子離れしているでしょう。喜ぶだなんて大げさな」
「いやいやそうじゃなくて。山田先生もそうですけど、団蔵君とか」
「―――・・・へ?」



てっきり父である伝蔵のことだと思ったのだが、小松田から出てきた名前に間抜けな声を出してしまった。
忍たま諸君だとかならまだしも、何故そこで『団蔵』と固有名詞が出てくるのだろうか。
そうは思いながらも、名前を聞いたときに再び罪悪感が利吉を襲った。



「いやあ、団蔵君が僕に会うたびに『利吉さんは来てませんか』って聞いて来るんですよ。だからよっぽど利吉さんに会って話がしたいんだなーって」



小松田は利吉の心なんぞ知らぬため、アハハと笑いながら文を紡ぐ。

団蔵が、利吉に会いたがっているという事実を。



「・・・そう、なんですか・・・」
「でも仕事だったらしょうがないですよね。暇な時にでもまた来て下さい、団蔵君もですけど皆楽しみにしてると思うんで」



団蔵が楽しみにしているという事実が利吉の胸に残る。

それを知ってしまえば会いたくなる。
自分の中に恐ろしい欲望が潜んでいるというのに、会いたいと思ってしまうなんてどれほど愚かなんだろう。


無意識に胸を押さえつけた。
チラリと可愛らしい笑顔を見せた団蔵が脳裏を掠める。


それを振り切るようにかぶりを振って。


利吉は忍術学園を後にした。










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