利団部屋

□豪雨
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上の空のまま用を済ませ、早いうちにおいとましようと利吉は立ち上がった。次に仕事が入っているので、理由作りには丁度いい。



「あ、待て、利吉」
「はい、何でしょう。父上」



ふすまを開けたところで父が利吉を止めた。
何か忘れ物か、あるいはどこかの城の情報か、利吉はいくつか可能性をめぐらせ、はたと立ち止まる。

しかし、予想は見事にはずれ。



「すまぬが、は組の教室からプリントを持ってきてはくれぬか。テストで使いたいのでな」



思わずこけそうになった。それくらい予想とは正反対だった。



「そんな・・・、父上がご自分で行ったらいいじゃないですか」
「教師という仕事も大変なんだよ。頼む。パーッと行ってパーッと戻ってくればいいだけの話だろ」
「それはそうですけど・・・」



それはそうだが教室に行きたくない。団蔵に会いでもしたら、この想いは爆発してしまう。父上、息子が教え子に手を出してしまったら、貴方はどうするんですか?



「ああ、忍たまの皆なら今は食堂にいるだろ。だから絡まれることもないと思うぞ」
「は・・はぁ。・・・・・、それなら・・・」



利吉が渋っているのを、忍たまに絡まれて仕事に遅れると思っているからだと解釈してくれたらしい。その解釈は誤りだが、正解を見破られるよりは何倍もマシだ。

団蔵もなんだかんだ言ってまだ十をすぎた子供。きっと皆と食事へ行っている。利吉はそう考えた。例え断ったとしても、兵太夫辺りが強引に連れて行きそうだとも考えた。

とにかく今は大丈夫。すぐに行ってすぐに戻ってくれば、何の心配もない。
そう思いながらもどこかで、団蔵に会いたいと願っている自分がいることが分かり、心臓をかっ裂きたい衝動に駆られた。

とりあえず、は組の教室向かって足を進める。数週間前は何度も通った道なのに、ここを通るのが何年ぶりかという気分になった。
廊下は天気のせいで薄暗く、湿気でジメジメしている。ヒュウ、と風が利吉のうなじを撫でた。



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