07/17の日記

14:09
こへ+団A 年齢逆転
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そう考えていた団蔵に反して思いっきり怪我をしていた小平太。木に背中を預け座りこんでいた。
それと言うのも、落とし穴にはまってしまったからである。
いけいけどんどんといつもの調子で走っていた小平太は途中で級友たちが見えなくなっていることに気付いたが、「まあそのうち追いついてくるさ」と更にいけどん。どこまで走ったかも分からないが、突如足元が崩れ足が宙に浮く。そしてそのまま穴の底へ。

穴はとても深くゆうに二メートルはあった。突然のことで受身ができず、着地とともに変な方向に足が曲がり激痛が脳天まで走る。
持っていたクナイと自慢の体力でどうにか穴から出ることは出来たが…。いくら六年生並の体力をもつ小平太と言えども、足に怪我をしたまま来た道を戻るのは至難の業だ。しかもいけどんをし過ぎてここがどこなのかも分からないし学園までどのくらいなのかも分からない。



「…まずいな…」



日は傾き始めている。このまま夜になれば体も冷えるし獣も何が出てくるやら。
お昼ごろはまだ楽天的に考えられたのに、夕闇が少しずつ迫ってくると不安になるのはどうしてだろう。だから夜は怖い。お日様は偉大だ。



「腹も減ったし」



腹の虫はお昼から絶賛大合唱中。お金を払わなくてもコンサートを聴くことができます。
足に負担をかけない範囲で木苺や野草を摘まんで食べたので近場にはもう何もない。疲れていたから食欲も増して沢山食べてしまった。
お腹がいっぱいだと前向きになれるのに、空腹になると途端に悲しくなってくるのはどうしてだろう。食堂のおばちゃんは偉大だ。

動けないから学園へ帰ることもできない。周りに食料もない。八方塞りだ。
せめて近くに沢があれば水分補給もできるのだが、水の音は全く聞こえず聞こえるのは自身の腹の虫のみ。うう、切ない。

添え木で固定して歩こうとも試みたがいかんせん巻き方が分からず諦めた。は組の伊作なら上手に巻けるのだろう。初めて保健委員会が羨ましく思えた。



「うーん、どうやって帰ろう」



ほふく前進?いやいや、体力に自信はあれどこの距離をほふく前進なんて無謀すぎる。
片脚で跳ねる?考えるまでもなく翌日筋肉痛になる。むしろ筋肉痛で済めばラッキー。関節が炎症を起こしそう。

きっと先生が見つけてくれる。大丈夫、大丈夫。
そう自分を励ますが小平太は知らない。捜索が始まったのは夕方の少し前だということを。



「いざとなったら虫を食えばいい。水分は朝露を舐めれば良い。いけるぞ!いけ――」



自身を鼓舞していたがガサッという音にびびって少し後ずさり。心臓が硬直する。
熊か?鹿か?
小平太の心配をよそに草むらから出てきたのは愛らしいうさぎさん。
何だ、うさぎか。固まっていた心臓が再び動き出した。



「……」



虚勢を張ってもまだ十歳の一年生。獣は怖いし一人は寂しい。
早く見つけてくれ。もう勝手にいけどんしないから!

膝をしっかり抱え込み再び木の下へ。
また夜に少し近付いた気がする。
同じクラスの長次とか遭難仲間がいれば良かったのに。そうしたら気持ちはまた違ったはずだ。少なくとも夜が近付いたり腹が減ったくらいで弱気になるなんてことはなかった。



「寒…」



さわさわと揺れる木々の梢。昼間は耳に優しい音も今は不安を煽る要素でしかない。

その梢に合わせるように奥からガサガサと聞こえてくる。向こうで風が強く吹いているのだろうか。草が揺れる音にしては幾分激しい。
音は徐々に激しさを増し段々近づいてくる。ガサガサという音に加えてドンドンドンと何かが走る音も聞こえてきた。

今度こそ熊っ?

ウサギがこんな鈍い音をたてながら走るわけないし、鹿にしては重苦しい。ということはやはり…!
死んだふり死んだふり死んだふり。小平太の頭の中はいかに死体になりきるか、それ一色になっていた。
動けないので木に背中を預けたまま目をつむり、ガクッとこうべを垂れる。息を殺して少しでも死体になりきろうとした。

ガサガサガサ。
ドン、ドン。

荒い息遣いが徐々に近づいてくる。小平太の気配を察知して襲いに来たんだ。
ぎゅっと手を握り締めた。様子を伺おうと薄眼をあける。


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