【献上部屋】
□【金色の紅・紅い金】<6P>
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俺、玄奘三蔵は三仏神の命を受け、下撲と共にはるか西の天竺を目指す旅の途中だ。
…最近、連れの悟浄とどういうわけか気が合い、旅の合間の休息時間を共有することが多くなった。
…昨夜も悟浄と同室。俺はいつも通り、一つのベッドでヤツと朝を迎えたはずだった…。
…が、起きたら違和感があった。…自分なのに自分じゃない感覚。
…それは、目を開けた俺の視界の端で、同じく横たわる《金色の髪》を捉えたことで確信付いた。
「………?…」
…自分が……もう一人…いる………?
…慌てて跳び起きてみれば、自分に背を向け頭まですっぽり布団を被ってはいるが、見間違うはずがない己の金糸の髪が布団の合間から垣間見える。
ソイツは何事もないような静かな寝息をたてていて……。
「……ッッ…!?」
…突然の事態に、その謎の人物を凝視していたら、ソイツはもぞもぞと布団の中で身体を動かしこちらに向くと、俺に腕を絡ませて、何を血迷ったか自分の声でこう言った…。
「………ん…もう起きたん…?…三蔵…」
「…………っ?!…」
………な…
…………な…
…………何故自分が自分を呼ぶッッ…?!
…思考停止する俺を尻目に、何も知らないソイツは眠りから覚めたらしく、絡めていた腕を離しながら布団から顔を出した。
…そして寝ぼけ気味に、
「…ぉ…はよ、さんぞ……」
…ゆっくり瞼を上げて、硬直する俺を見つめた…。
……が、固まる俺の目の前で、ソイツも俺の姿を見て言葉を失った……。
「………ッッ??………ななな…っっ!…なんで俺ッッ?!」
…ガバッッと勢いよく身体を起こすと、ソイツはまじまじと俺の顔を隅々まで見回した。
…互いの姿を信じられないという風に俺達はしばらく見合っていたが、やがてソイツがかすれた声で言葉を絞り出した。
「………何故に俺が二人いんの…?…お前…誰…?…」
「……っ…?」
……意味が分からない……
……にしてもコイツもおかしなことを抜かす。
「………ふざけんなクソ野郎……」
…お前は俺だろ…?
そう言い返すはずだったセリフが、言葉にならず喉の奥でつかえて消えていった…。
……自分の声じゃねぇ…ッッ?!…
…はっとして喉を掴もうと伸ばした俺の指先に、触れるはずのない髪の流れる感触が伝わり、訝し気に見てみれば……
……肩にかかるほどの長髪がさらりと揺れ、俺の頬をかすめ視界を紅に染めた…。
……悟浄と同じ…色…
…まさか…
半信半疑で部屋の鏡を見てみれば……そこに写るは自分の顔ではなく、驚いた表情の悟浄の顔だった……。
ベッドの上でそんな俺の様子を伺っていた「俺」は、つられるように傍に寄ってきて、恐る恐る脇から顔を映した瞬間……!
「………ぅぎぁぁぁあッッ!?…俺三蔵になってるぅぅっ?!」
…と、鼻を擦りつけんばかりの勢いで鏡を覗きこんだ……。
…深呼吸をし少し冷静になると、直視出来ない現実に頭が痛いが、だいたいの状況はつかめた。
…昨夜共に過ごし、今朝も本来なら隣に寝ていたはずの悟浄が自分であり…そして目の前の「俺」は、俺の姿をまとった悟浄なのだ…。
…この前代未聞な事態に、俺と悟浄は互いに悲痛な面持ちで見つめ合うのだった……。