【献上部屋】

□【温もり】<12P>
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 …微かにアルコールの臭いが鼻を掠め、眉間にシワが寄る。
 慣れない違和感に、俺は居心地の悪さを感じていた……。




 ここは街に一つしかない診療所。
 …白を尊重した部屋は清潔感が溢れている。
 隅には簡素なベッドが置かれ、戸棚には見慣れない薬やら薬品やらが所狭しと並べられ、興味を引き付けた。
 その部屋の中央に置かれた椅子に座らされ、治療を受けているのは、このメンバー唯一の人間……

―玄奘三蔵法師……



「……ん―…こりゃ毒性の胞子でも入り込んだかのぅ…。…この辺、今時期になると人間にはちとやっかいな胞子を飛ばす植物があるでなぁ…。……器官や目、鼻に入り込むと一時的な機能障害を起こすんじゃ…。…これもおそらくその症状じゃろうな」

「……なるほど。それでですか…」

 …と、八戒は診察する医師の言葉に、妙に納得した様子で頷いた。

「…心当たりでもあるんかいな…?」

「……え、えぇ。僕たち東から旅をしてきたもので。…実は、途中の森で突然連れの目が見えなくなって……。それで慌てて最寄りの街目指して駆けてきたというわけなんです」

「…そうかぃ、そりゃ災難だったなぁ…」

 …丁寧に事情を説明する八戒に、医者はしみじみ同情したように言うと、三蔵を振り返りながらこう言った。

「……まぁ心配せんでも2、3日で元通りになるから安心しなされ。…ただ、擦ったりすると悪化するから、一応邪魔でも眼帯はしておいとくれ。…それと目薬も出しとくから、一日数回注してな。……大丈夫。少しの間だけじゃて、不便なのは。…その間この街でゆっくり過ごすとえぇ」

 と、穏やかに笑い、宙を見つめたままの三蔵の肩に手をポンと置くと、目の消毒に取り掛かり始めた。
 …突然肩に触れられ、人の間近に迫る感覚を感じた三蔵は、反射的に身体をビクンと跳ねらせたが、目を消毒され、眼帯を宛がってもらうと、いくらか安心したのか、深かった眉間のシワも若干和らぎ、大人しく治療を受けるのだった…。



「…じゃぁ、お大事にな。…見えるようになったらまた来るといい」

「…どうもありがとうございました」

 …八戒、悟空、悟浄は医者に礼を言うと、目の見えない三蔵を引き連れ、診療所を後にした…。



 
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