【献上部屋】

□【せるふぃっしゅ】
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 …旅の途中。
 昼過ぎにたどり着いたこの街を、本日の宿場にすることにした三蔵達。

 野宿続きでさすがに限界だったのか、いつもは口をすっぱくする三蔵も、今回ばかりは首を縦に振った。

 早々と宿を決め、鋭気を養うはずだったが……。



―――――………



…宿屋にて。



 活気溢れる大通りに面した部屋の窓から、突然の怒声が辺りに響き渡った。


「…もういい!貴様らのような無神経共とは話す気にもならん!
…勝手にしろ!」


 破壊に近い音を立てて、乱暴に開いた扉から出てきた三蔵は、眉を吊り上げ、通りの人込みを掻き分けて紛れていった。

 続いて八戒が追うように飛び出してきたが、既に通りには姿はなく。
 三蔵の消えた方向を眺め、肩を竦めると、深々と溜息を吐き出した…。


――――……




「…三蔵、出ていっちゃったの…?」

 部屋に戻った八戒が扉を開けるやいなや、心配そうな悟空の声が出迎えた。

「………えぇ。一人街の方へ行ってしまいました」

「…………そか…」


 明らかに言い過ぎた感を露出する悟空は、肩を落としうなだれている。

「…ちょっと…言い過ぎたかな…」


「…そう……ですね…」

 八戒は三蔵の以外な行動にやや驚いているようだ。

「……まさかアレで三蔵があんなに怒るなんて………。
正直予想外でした…。
三蔵もああ見えて、結構子供っぽい所あるんですね…」

「……でも飛び出して行っちゃうなんて…。こんなん今までなかったじゃん!
……よっぽど嫌だったのかな……」

 テーブルに顔を埋めて落胆する悟空は、後悔したように嘆いた。

「……あんなに怒らせたの…初めてかも…。
…だって三蔵が飛び出していくなんて。
絶対ェあり得えなかったじゃん…」

 そこまで言い、深々と溜息をつくと、ベッドで無言でふて寝をしている悟浄に向かって、悟空は不機嫌そうに投げかけた。


「…なぁ悟浄。てかお前の言った後に三蔵ゲキ切れて、出ていっちゃったんだからさぁ。
反省してんのかよぉ」


「…………」

「……なあ。悟浄…!」


 悟空の非難の声は、身体を背け壁側を向いている悟浄の背中を刺すが、悟浄はだんまりを決め込んでいる。
 悟空も食い下がるように暫く責め立てていたが、その相変わらずふてぶてしい態度の悟浄に痺れを切らしたのか、椅子を蹴倒し音を立てて立ち上がると、ベッドへと歩み寄ろうとした。

 そこを八戒が寸前で制した。

「……まぁ待って下さい、悟空。
気持ちもわかりますが、今は落ち着いて話を進めましょう」

「…だって八戒…!…コイツがさぁ…!」


「……悟浄もいつまでも顔を背けてないで。
こちらを向いて下さい」


「……………」

 …八戒の仲裁に、悟浄は渋々起き上がったが、無言のまま視線は窓の外へと反れている。
 不機嫌そうだが、どうやら悟空に腹を立てている風ではないようだ。


 
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