◇頂き文◇

□ニャンコのキモチ
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心地良い日差しが毛並みをふくふくにさせる。
至福だ…。
最近のピカピカのハードカバーも悪くはないが、やはり古書はいい。
落ち着いた年月の匂いは陽だまりに似ている。優しく、温かな、アイツにも似……って、いやいや、俺は今何を考えた?!
別にあんなデカい犬ころのことなんてどうでもいいし!
だいたい俺は忙しいんだ。
こうして書物と一体化しつつ思想を巡らす。猫とは高貴で哲学的な生き物なのだ。

「ヒロさん、ヒロさん。遊びましょう!」
「………、」
深い思想に身を委ねるべく目を閉じたところで邪魔が入った。
転がるように真っ直ぐに駆けてくるデカい犬。
バカ野分。そんな満面の笑みで、全身で「大好き♪」アピールしてんじゃねぇよ。恥ずかしい奴め。全く犬は単純でいけない。……嫌いじゃねーけど。

すぐに返事なんてしてやらない。
それでも野分は気にしたふうもなく、ストンと俺の隣りに座ると、大人しく『待て』の状態になった。
ぱたぱた ぱたぱた……
微かな音に薄目を開けて伺うと、野分は不思議そうな顔をして手にしたものを揺らしている。
視界の端に揺れるやわらかく捕まえやすそうなホワホワ。
むずむずとする手から、無意識に爪が出そうになって、慌てて引っ込める。
…………飛びつきたい。
い、いやいやいや。俺はもう大人だ。大人の猫は常に客観的にクールでなくてはならない。あんなものに飛びついてじゃれるなんてことはガキ猫のやることだ。
ぱたぱた ぱたぱた……
チクショウ。何の嫌がらせだ?! 野分のくせにっ。
 
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