◇頂き文◇

□Black Velvet
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『Black Velvet』

黒い繻子に指を絡めて 物言いたげな視線には 気づかないふり

「……あのさ〜、忍」
「動くな」

本当はもっと 簡単にできると思っていたのに

「……忍、忍チン、あの…ですね」
「動くなっつってんだろ!」

結んで 解いて 結んで また 解く

「……忍。もう、いいから」
「もうちょっと! ……次、ちゃんとするから」

解いて 結んで 解いて また 結ぶ

「ほら、指赤くなってんぞ。今日はここまでにしとけ」
「……っつ」

不器用な自分が もどかしい 果たせないことが ひどく悔しい

「だいたい何だ? 急に人のネクタイなんぞ結びたがって」
「……別に」

それは淡く激しい独占欲 この人は 俺のものだと

「ま…その……なんだ。……地道にガンバレ…なんてな。ははは……」
「……うん」

鮮やかに 結び目を作る それだけで どうにかなるわけでもないのに

「上手く結べるようになったら、成人式のとき、お前のネクタイ買ってやるよ」
「……ほんと?」

鮮やかに 結び目を作れたら そうすれば 対等になれる気がして

「あぁ。……そんときゃ俺が結んでやる。俺の方が上手いし?」
「それまでには…上手くなる。……アンタのは、俺が結ぶから」

ささやかな約束の花弁を 幾重にも重ねて

すぐそこの遠い未来 共に 咲き誇れるように
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