◇頂き文◇

□ニャンコのキモチ
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「……野分」
「あ、ヒロさん。読書、終わりました?」
思いっきり不機嫌な声を出してやったのに、野分はやたら嬉しそうにこちらを見る。
腹立たしいので容赦なく睨んでやった。
「……とりあえず、それ揺らすのヤメろ。気が散る」
「あ、はい…」
途端にしょぼんと野分が耳としっぽをヘコませる。
多少、罪悪感を覚えないわけでもなかったが、むずむずする爪を押さえて俺はそっぽを向いた。
「あの…ごめんなさい。ヒロさんの嫌なこと、するつもりじゃなかったんです」
「べ、別にヤなことじゃねーけど…」
「でもヒロさんの時間、邪魔しちゃったんですよね。……すみません」
「だから、そんなんじゃねーって」

お前がそんな顔するなよ。これは俺の勝手なプライド。
ガキっぽい姿は見せたくない。
本当はちょっとくらい芝生で転がったり、宝探しに付き合ってやってもいいかな……とは思っているけれど。
「……野分」
「はい」
「……本、読み終わった」
「じゃあ、後のヒロさんの時間、俺が貰ってもいいですか?」
俺が返事をする前に、野分がぎゅっと抱きついてくる。
温かな、優しい陽だまりの匂い。
今更ダメだなんて言えるはずもなく、俺はなるべく不本意そうな顔を作ってされるがまま。
「ヒロさん……」
吐息のように囁いて、野分が耳の先に口づけてくる。軽く歯を立てられる。

陽だまりの匂いのする毛並み。パタパタ揺れるしっぽ。
……こっちなら、飛びついてもいいかもしれない。
ひょいと顔を上げると、野分がニコニコと俺を見ている。
何となく意表をつきたくて、軽く伸び上がって野分の口元をペロリと舐めた。
「?!」
真ん丸な黒目が『びっくり』なまま見開かれる。
……面白い。

「あ、あの……ヒロさん……?」
何だよ。構ってやってるんだから文句言うな。
よし決めた。
今日は野分『で』遊ぶことにしよう。
 
 
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