JOJO~創作~

□第一章
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ragattso ーラガッツォ−













プロシュートは苛立っていた。
何に苛立っているのかと言うと、今回の任務で始末することになった標的は人体実験を行っている非道の女。その女と実験施設の壊滅を命じられた。
女と施設を壊滅させることについて異論はなく、むしろいつもよりはましな任務だった。
だが、壊滅させる理由が気に入らなかった。
というのも、施設は元々パッショーネから少年少女を仕入れていたのだが、最近では別ルートから仕入れているらしく、それをよく思っていないボスと上幹部がこの任務を決定したらしかった。

「…施設の人間ごとやれってか」

プロシュートはリゾットに噛み付くように聞いた。
リゾットは顔色も変えずに簡単に答えた。

「物分りが良くて助かる。施設のモノ全てだそうだ。」

「…餓鬼もかよ」

目を伏せがちにプロシュートは言う。
その様子を痛ましく思うリゾットもまた、目を伏せた。
リゾットはプロシュートの気持ちか分かるのだ。出来ることならばそんな後味の悪い事はしたくない。
しかし誰かがやるのだ。
それがたまたま自分だっただけで、その子らの命は助からない。
それには変わりない。
そのやるせなさが、どこからか湧いてくる怒りが、上手く消化できないのだ。

「…プロシュート、嫌なら俺が…」

言いかかるリゾットの言葉をプロシュートは鼻で笑って打ち消した。
そして資料を机に戻し、座っているリゾットを見下ろして言った。

「なめるなよリゾット。俺はこのくらいの任務なら難なくこなすぜ?知ってるだろ」

何か言いたげに押し黙るリゾットに、プロシュートは微笑んで机越しに乗り出し、そっと口付けた。

「代わりに、帰ってきたら……」

後の言葉を濁らせたが、それでもリゾットは十分にわかっていた。
その先の言葉を。彼がどうして欲しいと言っているのかを、リゾットはよく理解していた。

「あぁ、わかってるよプロシュート。安心していっておいで。」

リゾットがプロシュートの頬を撫でると、プロシュートは微笑んでリゾットの手に小さなキスを送った。

「すぐに出る。心変わりしねぇ内にな……」

「あぁ、気を付けて」

プロシュートが部屋から退室するとリゾットは目を閉じて、プロシュートの後ろ姿を思い浮かべる。
刹那を生きる力強く儚い背中。
背負いきれない荷物を背負うその白く細い体。
リゾットはいい加減この感覚に慣れなければと思いつつ、この感覚を愛おしく思っていた。
自分もまだ人間であると思えたからだ。


「早く帰ってこい、プロシュート」














*************************

施設前の森林に車を隠し、その馬鹿でかい敷地を無断でまたぐ。
本館から離れた別棟に到着すると、プロシュートは迷い無く自分のスタンドを出し、警備員のものから順番に殺していった。
誰かが連絡するそぶりを見せると、プロシュートは陰から忍び寄り直に触って先に殺した。

「この辺の奴はこれで全部か…」

辺りを確認しつつ、別棟に侵入する。


「……ッ⁉︎」


プロシュートは別棟のその独特の匂いに吐き気と嫌悪を覚える。
口を手で塞ぎ、暗がりの中、月明かりを頼りに目を凝らす。

そこにあったのは……


「なんだ……こいつは…ッ⁉︎」


月明かりに浮かび上がったのは…







文字通りの化け物だった。



「マルコ・ポーロも驚きだな…」


人間が何人も紡ぎ合わされたそれは、呻くことすらやめたようで、ぐったりとしていた。
臭い…。
血なのか薬品なのか、それとも両方が混じった匂いなのかはともかく。
プロシュートは一刻も早くここから離れたかった。
だがしかし、誰を殺したのか把握してないと後々面倒だし、怪物の後ろに階段がある。
どうやらまだこの匂いに耐えなければならないようだ。

「上も確認しろってか…?」

呆れたような、笑いのような、どちらともつかぬ声を上げ、プロシュートはスタンド能力を発動させた。

(…ッ)

ゆっくりと目を閉じる怪物。
無数の目からは涙が浮かんでいる。
かすかに微笑み、一つだけ口が動く。



あ り が と う



プロシュートは舌打ちをした。



「これだから好かねーんだよ…ガキはよぉ…」




「あら、私のコレクションはお気に召さなくて?」



見上げると胸糞の悪くなるほど美しい白衣の女が、階段から降りてきた。
気取った降り方が、癪に障る。


「お待ちしてましたわ〜ぁン。貴方、パッショーネの方でしょぉ?」

資料のようなものを片手に女は話す。
さっき殺した怪物に向かって微笑んで言葉を吐いた。

その言葉にプロシュートは切れた。


あとは簡単だった。


脆くなった骨を砕き、肋(あばら)を粉々にして、顔は女だったかどうかも疑わしくなっていた。


「…てめぇが、こいつら作ったんじゃねぇぇかぁぁぁッ!!」


思わず叫んでいた。


近くの機械を蹴り飛ばし、あらかじめ知っていたガス管の位置を確認して、プロシュートは煙草に火をつけた。

「こんなとこさっさと燃えちまえ…」

プロシュートは歩きながらガス管を、隠し持っていた銃で打ち抜き、別棟を出た。

消えそうなマッチの火を別棟のそばの芝生に投げ込み、本館に向かって歩き出す。

暫くして、プロシュートの背景は消し飛んだ。


「クソ喰らえだ…んなもん」


今日の煙草はやけに苦かった。













**************************

真夜中アジトで寝てしまっていたリゾットは、どこかの部屋が開く音で目が覚めた。
書斎で息を潜め、気配を殺し、相手を察知しようとする。

すると、


「うあぁぁぁぁぁああ!!!!」


子供の悲鳴。

悲鳴は断続的に続き、リゾットはそっと書斎の扉に体を溶け込ませながら廊下に出る。
どうやらシャワールームから聞こえているようだ。

扉に近寄り、隙間から中を覗くと、金髪が見えた。

「プロシュート…ッ!?」

完全にシャワールームの扉を開けると、マットの上で服と手を赤くしたプロシュートが無常に繕った顔でそこに屈んでいた。
屈んでいるプロシュートの前には茶色い髪の少年が、これまた服やら四肢やらを血の色に染めて横たわっていた。
少年はほぼ意識がなく、目は虚ろで、顔色は死体のようだった。
泡でも吹いたような跡があり、床には血にまみれた拷問道具。

リゾットは今まで見たどの光景よりもおぞましく、恐ろしいと感じた。

「何をしているんだプロシュートッ⁉︎」

リゾットはプロシュートの片腕を掴み、無理やり自分の方を向かせた。
プロシュートは仕事中の顔つきのまま淡々と話した。

「落ち着けリゾット。ただちょっと調べてただけだ。問題ねぇ。殺せなかったのはこいつだけだ…リストで確認したから間違いねぇ。後の任務は完了しているし、こいつ以外のことは大方まとめてある。」

お前がまだアジトにいたのは俺の誤算だった、そう小さく呟いてプロシュートはため息をついた。


「…」

あまりにも無情で淡々としたプロシュートの態度に、リゾットは何が人間としての『正常』なのかわからなくなる。
戸惑いと疑問が残る中、その時はただ納得するしかなかった。

「ぅあ、あぁぁ…ッ…グゥッ、オェ」

少年は嗚咽を繰り返した。
何かを体の外へ出したいようだ。

「なかなかだしやがらねぇなぁ…」

「こいつ、何を体に入れている」

「あ、お前のメタリカで出せねぇ?」

リゾットの質問にはまるで反応せず、淡々と話すプロシュート。
どうやら彼もかなり心を張り詰めさせているようだ。
それもそのはず、一人で子供の拷問なんて誰がやりたがる。

リゾットは黙ったまま子供の横にかがみ、少年の腹部に手を軽くおき、『何か』の位置を確認する。
そして座標を確認し、呟く。

「…メタリカ……ッ」

少年は眼を見開き体をうつ伏せにして喉を引っ掻いた。

「…ッが‼︎…ぐぁ、ウォエェェェッ‼︎」

「嗚咽の仕方が妙だな。…血も出てこないようだが……?」

リゾットは自分の隣に体を屈めたプロシュートをちらりと見ると、ニヤリと笑っていた。

「あぁ、こいつのスタンド能力だ」

その言葉に、リゾットの目は見開かれた。

「生まれついてのスタンド能力…か」

「あぁ…しかも、こいつのはもともと持ってたスタンドに、無理やり別スタンドを融合されたもんだ。」

「…そんなこと…可能なのか…」

リゾットは顔をしかめ、少年に目を戻す。
少年のスタンド能力が働いて、うまくメタリカの効果が確認できない。
まだ一枚も剃刀が出てこないのだ。

「他人の脳細胞を少し脳に移植して、無理やりネットワークをつなげた状態みてぇだぜ。心臓も半分はその他人のに移植されているようだ。他にもやられたようだが…。実験で成功したのはこいつだけらしいな…」

プロシュートの言葉をかろうじて飲み込む。


「……ぉげ、ウェボッ‼︎」


やっと少年は剃刀を吐き出した。
連続して吐き出し、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

「なんだ、この固形物は」

リゾットは剃刀と混ざりあった固形物をそっと触った。
白とクリーム色が混じったような色のそれは、触ると少しネットリとしているが、3秒もしない内に硬くなりリゾットの指の型を作った。
剃刀を体内で処理しようとしてしきれなかった…と言ったところだろうか。
だから少年は血を吐かずにいられたのかもしれない。
むしろそれしか思いつかない。


「体外に出ると能力は消え失せるのか…なるほど、実用的だな」

プロシュートはそれだけ言うと、吐き終わってぐったりとする少年を抱き上げた。

「どうするつもりだ…」

「俺が興味本位で拾っちまったんだ…俺が始末をつける…」

「…ッ」

「だからてめぇはもう帰れ。餓鬼の断末魔なんて聞きたかねぇだろ?……悪かったな…付き合わしちまって…」

リゾットは耳を疑った。
何よりも切なかった。苦しかった。いたたまれなかった。
プロシュートの抱き方はとても優しいのに。
大切なぬいぐるみを抱えてるみたいなのに。
その顔は普段見せない人間の表情なのに。

冷たい。

少年に対する慈しみがこんなにも伝わるのに。
プロシュートの眼はとても辛そうだというのに

現実がギャングのルールが世界が

何もかも冷たい。

「プロシュート…ッ」

「わかってるよ、施設にいたやつは皆殺しってんだろ?わかってる、だから…」

言いかかるプロシュートの口を、人差し指をくっつけて静止する。

「もう何も言うな…」

リゾットはプロシュートを抱きしめた。
プロシュートはリゾットの肩と首の付け根に頭を乗せ、擦り付ける。

「…ボスからは施設のモノだけ排除するよう言われている…」

「…だから俺が」

「最後まで聞け、プロシュート。」

リゾットは右手でプロシュートの頬を支え、自分の方を向かせると同時に左手を背中から腰の位置に移動させた。
プロシュートはまるで拗ねた子供みたいにリゾットを見上げた。

「言われたのは施設のモノだけだ。そいつは…施設のモノじゃない。そいつは、そいつのもんだ」

プロシュートは目を丸くした。
それから小さく笑ってリゾットに言った。

「お前いつからそんなキャラになったんだぁ?」

「…俺は本気だプロシュート」

見つめ返すリゾットの眼に、プロシュートは困惑した。
リゾットの眼は真剣で、美しかった。
プロシュートは思わず目をそらし、反論する。

「なぁに言ってやがる、バレたらオメェ…ただじゃすまねぇぜ?いいのかぁ?ましてや仕事熱心だったお前が…」

「きにするな…どうせこの子は生き残ったさ…」

「だがこの餓鬼はどうせ…ッ‼︎」

「頼むよプロシュート…」

「ッ…」

「俺からの頼みだ」

リゾットの切なげな目に、プロシュートは何も言えなくなる。
ただでさえリゾットの『お願い』に弱いのに、そんな目をされては断れない。
プロシュートは押し黙って俯く。
すると目に入る少年の眉を寄せた顔。
それを見てプロシュートは呟いた。

「餓鬼のくせにこんなに眉寄せやがって…」

リゾットは少年の頬を撫でて微笑む。

「昔のお前にそっくりじゃないか」

「あぁ?俺、こんな顔してたのか?」

「あぁ、俺より年下で後からこの世界に来たのに、お前はいつ見ても仏頂面だった」


リゾットは笑い、プロシュートは納得しかねるように苦笑した。


ひとしきり笑うと、二人は覚悟を決めてしまった。



そして



誓いのようなキスをした。
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