-BL編-
□扉一枚
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「もうユーシなんか知らん!しねっ!!」
「ちょ、謙也!!」
冬休み。大阪の従兄弟が、せっかく遊びに来たっちゅーんに、なんや喧嘩してもうた。しかも、怒ってる理由がわからん。なんやねん、あのアホ…しかも死ねとかぬかしよった。相当怒っとるわ…どないしょ。なに謝ったらエエかわからん。とりあえず、ご丁寧に鍵をかけられた謙也の部屋のドアをノックした。
「謙也ぁ、出てきてや。ちゃんと話さしてぇな…わからんねん、なに怒っとるんか」
「死ね」
「うぉ…」
勢いよく、向こうからドアに衝撃。心配やなぁ…手とか足とか、怪我してへんかな。
「俺がなんや悪いことしたんは分かったから、ちゃんと謝らして。頼む、な?」
「死ねこのタラシ」
「なぁ…頼むから」
「……どっかいけ!!」
「嫌や。行かへん。こーなったら持久戦や。謙也が出てくるか、怒ってる理由言うか…それまでこのドアの前離れんから、気が向いたら声かけてな」
俺は、ドアに背を預けて座った。ドアの向こうで、ベッドに倒れる音がした。
部屋のなかは静まり返っている。俺は、ひたすら謙也を怒らせた理由を探す。
昨日は…謙也が部活見学に来て、休憩時間は跡部と三人でしゃべって、宍戸が怪我したから手当てして、ジロー起こして、スカッドサーブ避けて…普通や。普段通りや。何が癪やったん?謙也…。
行き詰まった俺の耳に、新たなもの音。
――ビリッ…キュキュッ…カサッ
「ん?」
足音がドアの前で止まったと思ったら、下の隙間からノートの切れ端が差し出されていた。しかし、そこに書いてある言葉は辛辣そのもの。
『この浮気者』
あ、でも死ねがないわ。まだましか。てか、なんで紙?
「謙也?話す気になったんか?」
声をかければ、また同じ音がする。
『帰れ』
「今はここが家や」
『じゃあリビング行け』
「謙也と一緒ならな」
『このタラシが』
「なんでや。俺は謙也一筋や」
『嘘つき』
「ホンマや」
『嘘つき!!』
「っ…」
二度目の嘘つきは、ひどい殴り書きだった。しかし、俺はあることに気づく。紙の端に、水滴の落ちた跡がある。
「謙也…泣いとるん?」
「っ…」
扉の向こうから、息を飲む気配。グシャグシャの紙が差し出される。
『泣いてへんわアホ』
「ほな、部屋入んで」
勝手知ったるなんとやら。この家のドアの鍵は、コツさえつかめばこちらからも開く。設計ミスかと思ったら、おじさんのはからいだそうだ。ちびっこが閉じ込められないようになんだとか。まさに粋やな。そのはからいに便乗し、鍵を開けた。
「ちょ、ユーシ!!」
「開けんかいコラ」
「いややっ!」
「このっ…」
謙也がドアの前にいるせいで、押すに押しきれない。怪我、させられへんもんな…。