-BL編-
□とどかない
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パリに着く。すぐさまタクシーを拾い、手紙にあった住所を見せた。
言葉は通じないため、有り金からテキトーに払った。
今は金なんてどうだっていい。
病院の階段を、二段飛ばしに駆け上がる。
韋駄天とも言われた足は健在で、あっという間に六階へと到達。
足早に病院に駆け込んだ。
「っ、はぁ、ユウジっ!!」
そこには、管に繋がれた痛々しい友の姿。
「なあっ!ユウジ!言いたいことってなんやねん!それ聞かんと!俺、死なれへんぞ!」
そこにいた、友人らしき人が困惑している。
片言の英語で、ここ数日意識がないことや、手紙を出したのは自分だなどと教えてくれた。
礼を言い、ユウジの手をつかんだ。
まだ暖かい。生きてる。
「ユウジ…ユウジっ!なぁ!俺に言いたいことあんねやろ?!早う教えてや!俺が待たされんの嫌いなん!知っとるやろ!ユウジぃっ!」
感情が高ぶって、叫ばずにはいられない。
見かねたその人が、缶のお茶を渡してきた。
仕方なく受け取って、ユウジの手を握ったまま椅子に座った。
「ユウジ…俺も…お前に言わなあかんことあんねん。俺な……………」
それより先を、口にすることができなかった。
今更口にしたところで、一体どうしろというのか。
その時。
ユウジの手が、俺の手を握り返した。
缶を落とした音が、やたら大きく響いた。
「ゆう、じ…?」
うっすらと、瞼が上がる。
変わらない切れ長の目、綺麗な瞳。
形のいい唇が、ゆっくりと動く。
「け、や…す、き……………」
「…っ!!」
聞き取れるかどうか、ギリギリの声。
しかし、謙也には届いていた。
「ユウジ!俺も!……………ユウジ?」
響き渡る、嫌な音。
職場で嫌という程聞いた、あの音。
人の鼓動が止まったことを、
その人の人生の終わりを、
何もかもの終わりを告げる、
非情な、無機質な、あの音。
「いやや…いややっ!ユウジ!俺まだ言うてへん!お前のこと好きやって!言うてへんで!!なぁっ!ユウジぃっ!!!」
いくら叫んでも、ユウジの鼓動は
戻らない。
辛い。
もし俺が、さっき口に出していたならば…
ユウジには届いていただろうか。
ユウジは、こんな俺を、許してくれるだろうか。
今の俺が思うことは、一つだけ………………
「もう一度でええねん……………名前っ、呼んでや……………っ!」
ぱたぱたと落ちる涙は止まらなかった。
泣き崩れる俺の肩を叩いたのは、あの友人だった。
そこには、また、一通の手紙。
俺は確信した。
ユウジは、俺の気持ち、知ってたんやな。
結婚式の時、あんな笑ってたんは、演技やったんか。
ごめん…ごめんな…
一生かけても、償えんから…
今だけ……………
俺は振り返って、ユウジの唇に、俺の唇を重ねた。
まだ、暖かかった。