BL2

□キスの日
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最近、ユーシの様子がおかしい。
なにがおかしいって、よく心を閉ざす。
心を閉ざしてるけど、普通に接してる。
…俺の前だけ。


「なあ、ユーシ?」
「なんや?」
「今日、お前んちよっていい?」


ほんの一瞬。
その隙に、ユーシは心を閉ざして笑顔を作る。


「もちろんええで。今ちょっと散らかっとるけど勘弁な」
「知ってるっての」


俺は今日、ちょっと聞いてみようと思う。
覚悟の上だ。
ユーシがなにかつらいことがあるんじゃないかって、心配だから。
前に、ユーシが教えてくれた。
言葉にしなきゃ、わからない。
ユーシがそれを見失ってるなら、今度は俺が思い出させてやる。


「で、今日はどないしたん?」
「…あのさ、お前最近変だぞ」
「…?変?」
「なんで…」


唇が重い。
言葉を発するのって、こんなに大変だったか?


「なんで俺の前で、心閉ざすんだよ」


…ユーシの表情が変わらない。
やっぱり、ポーカーフェイスの心を閉ざしてる状態だったんだろ…。
くそ、こんなことしてるじぶんが嫌いだ。
でも、俺はユーシみたいに器用じゃないから。
全力でぶつかるしか、解決方法を知らないから。
だからユーシ、こんなことしかできない俺を、許して。
落とされた沈黙を蹴破るように、俺はまた口を開く。


「最近ずっとそうだ。にこにこしてるけど、心閉ざしてるだろ。俺だってそのくらいわかるよ。俺、お前の恋人だぞ?お前のこと大好きなんだよ。だから…」
「…………」


無言で、俺を抱きしめてくる。
いつもそうだ。
これで、この話は終わりにしてくれというユーシの態度。
でも、抱きしめてもらうだけじゃダメなんだ。
わからない。
俺にはわからない。
ユーシがなにを言いたいのか、どうしたいのか。
わからない。

…だから。

ちゃんと言葉で、伝えなきゃ。


「ユーシ、離せよ。ちゃんと顔見せろよ!ユーシ!」
「…すまんなぁ、がっくん」
「なんでっ、だよ…離せ!ちょ、一旦離せよ!!」


ジタバタと暴れてみるが、びくともしないとはこのこと。
俺は無性に悲しくなって、泣きたくないのに、またユーシの前で泣くなんて、嫌なのに。
溢れてくる涙を、止める術なんか知らなくて。


「な、んで…っく、だよ…ひっく…ユーシ…なん、で…」


抱きしめる腕の力が強くなる。
違う。
違う。
そうじゃない。
大きく息を吸い込んで。
一つ一つ、確かに紡いで。


「ユーシ、そうじゃねぇよ…お前も、ちゃんと言葉にしてくれよ…頼む」


静かに伝えるが、ユーシに動きはなくて。
心配が、不安が、怒りに身を染めて俺を支配する。
ダメだって、ここでキレても仕方ないって、わかってるのに。


「俺わかんねぇから!頭悪いから!読み取るとかできねぇよ…できねぇんだよ!だから、ちゃんと言葉にして、伝えろよ!!不安なんだよ!!お前のこと嫌いになんかならねぇし、なりたくねぇし…っ、なれねぇよ…だからちゃんと聞かせてくれよユーシ!!!!」


また、泣いてしまう。
嫌だ、嫌だ、こんなの。


「俺は…お前と笑いてぇんだよ!!!」


ユーシの厚い胸板に、思い切りこぶしを叩きつける。
ユーシはなんでもない風に受け止めて。
そんな態度に、また不安が募る。
通じてない…?
このままじゃ俺…お前と一緒に居られる自信ねぇよ…。


「がっくん、ほんまに、ごめんな…俺な、自分が理性効かなくなってん。せやから、堪忍…」
「理性…?」
「ちゃんと話すから、受け止めてくれるか?」
「お、おう…?」


ちゃんと向かい合って座って、涙を拭ってくれた後。
いつもの様子に戻ったユーシから、話をきいた。


「つまり、それって…」
「がっくんが可愛くてしゃーないから…我慢しててん…」
「……はあああああああああ?!?!なんっだよそれ!」
「…堪忍」
「いやいや、わけわっかんねーし!俺キレ損じゃんか!!!!」


思春期の欲望とやらに悩まされていただけ、という結論に俺は拍子抜け。
逆におかしくなってきた。


「ぷっ、あはははははは!!!なんだよ!!そんなことか!!!もうやめろよユーシ!!!お前ユーシやめろ!」
「がっくん、言うてること意味わからんで…」
「よっと。ん」


俺はひょいっと移動して、ユーシの膝に乗って目を閉じた。


「え…?」
「キスくらいさせてやるって。ほら、ファーストキスなんだから、焦らすんじゃねーよ」
「お、おう…」


頬を両手で包まれて、ドキドキする。
その手に俺の手も添えて、熱を感じる。
視界がさらに暗くなって、ユーシの匂いがして、唇に暖かいものが触れて。
ほんの一瞬の出来事なのに、体にはすごい勢いで記憶されていくみたいだ。


「っへへ、ファーストキスユーシにあげちゃった」
「かわええこと言うてるともっとチューすんで」
「いいぜ。ほら」
「なん…はまったん?」
「さっきも言ったろ?ユーシのこと、大好きなんだよ」


言葉にしろと教えてくれたのは貴方だから。
俺は貴方に素直な気持ちを。

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