置き場

□財前光と。
1ページ/4ページ

「あ、嵯峨野先輩、俺とっすわ。」
『あ、光くん…。』
「どもっす。先輩の嫌いな俺っすよ。」
『うぅ…。』

嵯峨野は、財前の毒舌に日々斬られまくっているので、財前が苦手だった。

『き、嫌いじゃないよ!』
「へーえ。じゃあその冷や汗は何なんすかね。」
『に、苦手なだけだもん!!』
「それも嫌いって言うんすよ」
『うぐっ…謙也ぁっ!』
「あだっ!ったく、なんやねん、毎回毎回…。」

嵯峨野は、振り向きざまに忍足を殴った。もちろんやつあたりだ。忍足も慣れたもので、たいした文句も言わなかった。

「財前、いじめんのやめたれ。」
「いじめてないっすわ。」
『いじめられてはない。』
「じゃあなんなんや。俺にどうしろと。」
『だってぇ…。』
「財前、クジ替わるか?ユウジとやけど。」
「ユウジ先輩はビビりだから嫌っすわ。」

忍足があれこれと提案するが、すべて財前は却下した。

『…じゃあいいよ。光くん、一緒に行こ。』
「まあ、別に俺は構わんのですわ。先輩が勝手に俺んこと苦手意識するから悪い、と。」
『ひどい…。』
「あー、俺順番だから行くで?仲良くしぃや?」
『謙也ぁ…死ぬなよ。』
「死ぬかい。」

そんな二人のやり取りを、財前はどこかつまらなそうに見ていた。

「…嵯峨野先輩。」
『な、なに?』
「肝試し、得意ですか?苦手ですか?」
『え…?』
「からかいませんから、正直に答えてください。」
『…苦手、です。』
「ほな次。俺と肝試し、どっちの方が苦手ですか?」
『へっ?…え?』

財前は、嵯峨野を正面から捉えた。真っ直ぐに。嵯峨野は、どう答えたらよいのかわからず、口を開いたり閉じたり、視線をさまよわせたりしていた。

『あ、う、えと、』
「からかいませんから、正直に言うてください。」

再び繰り返された台詞。財前にはからかうつもりは全く無く、ただ興味本意に聞いているだけなのだが、嵯峨野は財前の機嫌を損ねない回答を出そうと必死だった。

『肝試し、の方が、苦手、です…。』
「そうっすか。ま、安心しましたわ。ほな、時間なんで行きますよ。」

持っている懐中電灯を手の上で器用に遊びながら、月明かりを頼りにに歩き始める財前。こんなところに一人で置いていかれたくない嵯峨野は、慌ててついていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ