置き場

□一氏ユウジと。
1ページ/8ページ

「…嵯峨野か」

声がした方を見れば、かなり不機嫌な顔をした一氏。

『ユウジ…いざとなったら逃げそうだね。』
「逃げへんわ!くっ…なんで俺がコイツと…小春ぅ…」
『しかたないでしょ、小春ちゃん驚かし役だし。くじ引きの結果なんだから。』

笑いが鉄則の四天宝寺は、驚かし役も争奪戦。今回それを勝ち取ったのは、白石と金色だった。

「白石の奴、絶対いかさまやで。基本に忠実でベタなやつ!!」
『あー、クジを手に隠しといて…てきな?』
「なんやて!せやからあいつクジ作るとき…」
「謙也、なんや見たんかお前」
「おう。あいつな、作るとき一本多く作っててん。指摘したら白々しく「ああ、ほんまや」とかぬかしよって…怪しいとは思うたけどな」
「『白石…潰す』」
「こわっ」
「謙也ぁー!いっくでー!!ワイが一番乗りやぁー!」
「あっ!待ちぃや金ちゃん!!ほな、先行くわ!!」

三番のくせに、猛スピードで走っていく遠山と忍足。あれでは仕掛けも何もないし、前のペアに追い付いてしまうだろう。そう予想し、嵯峨野はため息をついた。

『ったく、あいつらは…ユウジ?』
「あ?」
『…もしかして、ビビり?』
「ちゃうわ!!べ、べつにビビりちゃうわ!!」
『……ビビり?』
「ちゃうわ言うとるやろがこのナス!!」
『べつにナス好きだし』
「ほなかぼす!!」
『かぼすってなに!?』
「知るかボケ!!」

嵯峨野は様子のおかしい一氏に、声をかける。どう見ても、びびっているようにしか見えない一氏。冷静な嵯峨野に対し、一氏はぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。

『ま、私は全然平気だけどさ。ユウジとの相乗効果で、少しは怖い思いできるかしら』
「なっ…俺はビビりちゃうからな!」
『はいはい、じゃあいくよー』
「…お、おぅ」

嵯峨野は懐中電灯をつけ、薄暗い小道を歩き始めた。一氏は、やや近いのではないかという距離で歩いていた。

『ユウジ』
「な、なんや」
『近い』
「っ…すまん」
『手、繋ごうか。肝試しの定番。ね?』
「…おちょくっとんのか」
『違う違う。雰囲気作り。だから、手伝って。ね?』
「…ま、しゃーないわ」

あからさまにほっとする様子を見せる一氏に、嵯峨野はバレないように笑った。
嵯峨野は一氏の様子をうかがいつつ、口を開く。一氏はやや必死の様子で、相槌を打つ。

『肝試しって初めてだなー、こんな墓地とか』
「そ、そーなん?」
『うん。あんまりこういうバカやる友達いなくって…』
「へぇ…」
『学校で一緒にいる友達はいたけど、遊びに出るような友達はあんまり…ね』
「………」
『あとさ、墓地のまわりが外灯なくて、暗すぎて危なかったんだよ。だから、親が許してくれなくてさ』
「今日はなんで来れたん?」

緊張も解けてきた様子の一氏。声も、だいぶ震えがおさまったようだ。

『テニス部と行くって言ったらオッケー出た。なんでだろーねー。やっぱ男の子たちとだから?』
「普通逆やない?」
『んー、でも前は女の子だけでやろうとして止められたし』
「へー…」
『ね、ユウジ』
「ん?」
『少しは怖くなくなった?』
「あ…うん…って、ちゃう!俺は最初からビビってへん!!」
『はいはい(笑)』
「笑うなや!!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ