置き場

□遠山金太郎と。
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「暁ー、ワイとやでー!」


墓地の入り口で、元気な声が響く。


「おおっ!金ちゃんかー。置いていかないでね?」
「金太郎、暁になんかあったら毒手やからな」
「げ…毒手…!ちゃんと暁のこと守る!お化けから守るで!!」
「ありがとー、金ちゃん。よしよーし」


ニコニコと遠山の頭を撫でる嵯峨野。
遠山も、嬉しそうにじっとしていた。
そんな様子を見て。


「犬と飼い主にしか見えへん…」
「俺もっすわ…」


どこか呆れた忍足と財前。
そして、一組ずつ闇に消えて行く。


「金ちゃん、そろそろ行こっか」
「おんっ!お化け出ても守ったるからな!」
「うん、よろしくね。じゃあ、手ェつなごっか!」


仲良く手をつないで、暗闇へと足を踏み出す。


「暁はお化け怖いんかー?」
「うーん…怖い、かな?」
「ワイ怖くないで!出てきてもやっつけたるからなー!」
「あらら、お化けさん大丈夫かなぁ。」


金ちゃんには内緒だが、おどかし役は千歳と小春だ。
とても頭の切れる連中なので、嵯峨野は警戒しながら歩く。
というのも、嵯峨野はビビリ症なのだ。
平常心を保っているように見せつつ、内心は穏やかでないことはしばしば。
今回の肝試しだって、イヤイヤ参加しているのだ。
人数が合わないという白石に乗せられたお人好しである。
話題がないわけではないが、何と無く会話はテニスの方向へ。


「金ちゃん、テニス楽しい?」
「めっちゃ楽しいで!強いやつとやるんがめっちゃ好きやねん!」
「そっかー。さすがだね、金ちゃん」
「跡部とか真田とか、いつか試合したいわー!強いんやろー?ええなー、うらやましいなー。」
「なんで?」
「なんでって、強いっちゅーことは、カッコええからや!」
「そっか!でも金ちゃんはかっこいいよ。」
「ほんま!?おおきにー!」


和むような会話をしていたが、刹那。
金ちゃんの表情がかわる。


「暁、なんか来るで…」
「え?」


野生の勘とでもいうのだろうか。
突然真剣な顔になり、前を見つめる遠山。


「金、ちゃん…?」
「しー!…なんや、おるでぇ…」


遠山の悪ふざけかと嵯峨野が思った時、事態は動いた。
ガサリ。
前方の植木が揺れる。
確かに、何者かの気配がする。
が、誰もいない。


「…ここ、なんかいやや。はよ行くで、暁」
「う、うん…」


先ほどの場所は素早くくぐり抜け、遠山の足に合わせてどんどん歩いて行く。
しかし、どうにも方向が定まらない。


「金ちゃん…?道、合ってるの…?」
「堪忍…嫌なとこ避けて歩いとんねん」


なんだか、遠山が大人に見えた瞬間だった。
嵯峨野は考え始めた。
遠山の『嫌なとこ』とは、なんなのか。
考えたくもない。
遠山の直感の鋭さは、部員たちが一番よく知っている。


「ねぇ、金ちゃん…だいぶ道外れてるけど…」
「大丈夫やで!怖くないで!ワイがおるから!な?せやから泣かんといて?」
「うん、泣かないよ…でもね、金ちゃん…怖い…」


状況が状況なだけに、嵯峨野は完全にビビっていた。
それは遠山にも十分伝わっていて、繋ぐ手に力が入る。


「ワイが、絶対守ったるからな!はよ白石たちんトコ行くで!な?せやから、歩こや?」
「う、うん…」


相変わらずのペースで歩いて行く。
しかし、二人の距離はさっきよりも近くなっていた。
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