置き場

□幸村×切原
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幸村×赤也

最近、赤也が拗ねている。
理由はよくわからないけど、子供扱いするなとやたら主張してくる。
そんなに子供扱いしているかなぁ…。


「赤也、早く着替えないと置いていくよ」
「わわっ!ちょ、ちょっと待ってください〜!」


ほら、相変わらずそそっかしい。
なんていうか…ちゃかちゃかしてる。
落ち着きがなくて、構ってやりたくなるようなやつ。
所謂、可愛い後輩なんだろうな。
丸井や仁王によくからかわれては、ぷんぷんしてるんだから、かわいいなほんと。
…あ。


「…っ、仁王くん!着替えている時にちょっかい出すのはやめたまえといつも言っているでしょう!」
「さーぁ、どうだかのう?」


ヒソヒソと喋ってはいるけど、聞こえてるからねー、そこのぺてん師コンビ。


「仁王、柳生。TPOって、知ってるかなぁ?」
「すっ、すみません幸村くん!仁王くんが言うこと聞かなくて…」
「あー、俺のせいにするんかのォ…あとでお仕置きじゃの…ククッ」
「その前に仁王にお仕置きが必要かな?」
「…あ。幸村ー、前が見えんぜよ…」
「そのままでいれば。だってお仕置きだし」


赤也の手前、そういうところは是非とも見せないでいただきたいな。
教育上、よろしくないからね。


「っと、部長!準備できたっす!」
「よし、じゃあ帰ろうか。蓮二、鍵よろしくね」
「ああ。了解した」
「仁王…反省した?」
「し、したぜよ…」
「次やったら解かないから、覚悟してね」
「…はい」


キョトンとした赤也の頭をくしゃっと撫でて、外に出た。
仄明るい空に、白い月が浮かんでた。


「わ…なんか、空綺麗っすね」
「赤也が空を見るなんて珍しいね」
「なっ、俺だってそのくらいしますよ!子供扱いしないで欲しいっす!」


…またでた。
それはなんなんだろう。


「あのさ、赤也。子供扱い、されたくないのかい?」
「そりゃあ、されたくないっすよ!」
「俺が、赤也を子供扱いしてるっていうのかい?」
「いつもそうじゃないっすかー…俺だけ、子供扱い…」


なぜかしょげ始める。
赤也には半透明の耳と尻尾が着いていると思うのは俺だけかな。


「じゃあ、俺はどうしたらいい?」
「…え?」
「どうしたら、赤也は子供扱いしてないってわかってくれるんだい?」


どんなことを言ってくるのかと思ったら。
まさかこんなことだったなんて。


「─す、───しいっす」
「え?なんて?」
「だからー!…キス、して欲しいっす…」


一瞬、あっけに取られた。
そんなことか、と。
キスが一体なんの役に立つのかと、しばしば疑問に思っていたが。
…俺は、恋愛に関する行為を軽く見過ぎていたかもしれないな。
真剣に、この暗さでもわかるくらいに顔を真っ赤にして、必死に告げてくれた恋人。
一つ下の、生意気な、手のかかる恋人。
どうしようもなく、愛おしく感じられた。


「いいよ、ほら、おいで…」
「部長…どこ行くんすか…?」
「公園。こんなところで、できないだろう?」
「あ…そっすね!」


急に元気になり、終いには俺を引きずるように公園へと歩く赤也。
なんだか、散歩を喜ぶ犬みたいだと思った。
公園は珍しく人気がなく、月明かりで白く映し出され、幻想的だった。


「夜の公園って…気味悪いと思ってたけど…なんか、いいっすね…」
「ふふ、俺も初めて来たよ。夕暮れ時にはよく来てたんだけどね。月明かりが、眩しいくらいだな…」


近くのベンチに腰掛け、思い切り背もたれにもたれかかって、二人で月を見上げた。
白く光るそれは、いくら見ていても飽きない。
俺たちの恋も、そうであればいいと、ぼんやり思った。
おかしいな、俺こんなポエマーでもロマンチストでもないはずなんだけど。


「なんか…冷えてこない…?」
「まだ夏前ですもんねー」
「もう、そうじゃないよ。こう」


手をそっと握る。
ただ握ったあと、恋人つなぎに直して、指先から伝わる拍動で緊張を感じとった。


「ふふ、あったかいよ」
「…俺もっす」
「ほら、こっち向いて…んっ…ふふ、真っ赤だよ」
「なっ…ぶ、部長こそ!」
「あはははは!もう、可愛いね、赤也は」
「部長こそ…すげーキレーっすよ。月の光でキラキラしてる」


赤也の拙い表現に、口元が緩む。
周りの偏見で高尚と称えられた駄文に怪我されてない、純粋な表現。
いつだって、何かをまっすぐに素直に捉えてる。
だから、俺は赤也が好きだ。
時には私欲に目がくらんでいることもあるけれど。



「さあ、あまり遅くなると怒られるから、帰ろうか」
「そうっすね」


俺は立ち上がろうと手を抜こうとしたが、しっかりと掴まれていて抜けなかった。
それどころか、先に立ち上がった赤也が手を引いてくれて。
月光を正面から浴びて手を差し出した赤也は、いつもの雰囲気はどこへ。
紳士と呼ぶにふさわしく見えた。


「せっかくなんで、手ェつないだまま帰りませんか?」
「ふふ、そうだね。赤也にしては…ふふ」
「また笑うー!そんなに似合いませんか?!」
「いや、さっきのはカッコよかったよ。月明かりもいい感じに照らしてて」


またすこしぷんぷんしてるけど、やっぱり可愛い俺の恋人。
子供扱い?してないよ。
実はね…ただの俺の、照れ隠しだから。
 

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