-BL編-


□好きなのに。
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ユーシの部屋に二人。オフの休日を、ゆったりと過ごす。たまにしかない休み。好きな人と二人きり、一日過ごせるなんて、嬉しいことこの上ない。しかも、泊まりでいいなんて言われて、学校の準備も抱えて家にお邪魔させてもらった。

夕方、薄暗くなる。そうなると、ユーシは大人の色香を増して、恋人らしい触れ方を求めてくる。正直、俺はそれが苦手で怖い。そして何よりユーシの整った顔が近づくと、心臓が壊れるんじゃないかってくらい暴れて、苦しくなる。顔も熱くなって、頭が白くなって、その感覚が嫌なんだ。きっとユーシに言えば、考えてくれるのはわかってる。だけど、俺の苦手を知って加減してくれてるのに、これ以上甘えたくなかった。

だけど、やっぱり怖いものは怖い。ゆっくりと、俺の様子を確認しながら、キスをしようとしてくるのがわかる。いつもなら、じっとして受け入れる。だけど今日は久々で、心臓は尋常じゃなく拍動していて、心音が自分でも聞こえてくる。ユーシの手が後頭部に添えられる寸前。弾かれたように、俺よりも厚い胸板を押し返す。


「っ、やめろよっ!!…ぁ」

「岳人…っ、岳人!?」


俺は気まずくなる前に、部屋を飛び出し、家すら飛び出した。今は、会えない。なんて言っていいかわからない。無心で走って着いたところは、よく部活帰りに寄った公園だった。いつものベンチに寝転がって、ただただ溢れる涙に袖を押しつけた。


「俺…お前が…っ」


好きなのに。どうして拒んでしまうかわからない。好きすぎて、怖いのかもしれない。今も、どうしたらいいかわからない。帰らなきゃ。帰らなきゃいけないのに、まさに合わせる顔がない。謝ったところで、嫌われてたらどうしよう。俺はきっと、ユーシに嫌われたら生きていけない。それくらい、好きなのに。頭の中はユーシの事でいっぱいなのに。


「何考えとんの?」


幻聴かと思った。足音が聞こえて、バッと飛び起きる。足元に、ユーシが立ってる。いつものユーシじゃない。心を、閉ざしてる。怖い。このときのユーシは、ただただ怖い。その恐怖も合間って、言葉が続かなくて。


「…言えねぇ」


それだけ言うのが、精いっぱいだった。口が乾いて、喋りにくい。冷たい視線が、俺を貫く。心臓は締め付けられて、頭の奥が冷えきっていく。


「なんでや?」

「…っ、言えねぇんだよ!」


耐えきれず、叫ぶ。嫌だ、こんなの。ユーシの事、嫌いになんかなりたくないし、なれないのに…心臓が嫌な音をたてるのが、不快で仕方ない。何もかも嫌で、逃げたくて、また走り出した。


「ちょ、岳人!!」


あっさり腕を掴まれて、逃げられるはずもなく、背を向けたまま俯いて、言葉を待った。
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