-夢編-

□情緒フ安定
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最近、彼女と距離が開いてきた。信頼されてるからこそなんだって、わかってるけど。クラスが離れて、帰りに迎えに行っても、もう居ない日も増えた。見かけたのは、友達と帰る姿。女の子だから、別に新しくできた友達なんだろうし、俺が止める権利はない。


「…はぁ」


前はこういう日は別に友達と帰ってたりしてたんだけど、なんだか最近はそんな気分も失せた。ただひたすら、彼女のことばかり考える。あの時はこうだった。あの時は、あの時は、あの時は。思い出に浸って、自分の気持ちをやり過ごした。ただそれだけじゃ、やっぱり物足りなくて。昼休みは必ず会いに行った。


(今日はいるかな…あ)


とある日の昼休み。姿がない。わかってる。別のクラスの、あの友達のところに遊びに行ってるんだろ。わかってるから、俺は会いに行く。


「やあ」
「あ、精市」
「幸村くん!」


ニコニコとして、すこし会話に混ざる。それでも、やっぱり俺は部外者であるような疎外感が拭えない。不快だ。顔が歪まない内に立ち去ろう。


「じゃ、そろそろ戻るね」
「うん、またね」


それだけで、彼女はまた友達のほうを向いてしまう。なんで。どうして。俺は君の彼氏じゃなかったのかい?そんなにないがしろにされる存在だったのかい?信頼されてるからだと、頭ではわかってる。でも、心は納得してくれない。


「っ…んで」


口から言葉が漏れ、慌てて気を引き締める。なんで。どうして。それしか考えられなかった。どうしても、一緒に帰る時間を取り戻したくて、その次の10分休みに会いに行った。


「今日一緒に帰らない?」
「あー…あの子も一緒でいい?」
「…やっぱりいいや。俺がいても、邪魔になるだけだろうしね。じゃ」
「あ、ちょっと」


呼び止めるのは聞こえないふりをして、時計をちらっと見て急ぐふりをする。

ああ、もう。いやだ。俺が君の一番じゃないのかい?俺にとっての一番は君なのに、もう、きみは、僕のこと…見テイナイノカイ?ああ、辛いなぁ。辛いなぁ。どうしてどうして。

頭の中が、クラクラする。もう何も考えられなくて、辛い。なんだか涙腺がゆるくなるような、そんな感情にどっぷりと浸っている。こんな状態なら、死んだほうがましだ。

ああ、それでもこんな自分が憎い。ああ、ああ、この怒りは、一体、どこに、向かって、いるの?

気がついたら放課後で、掃除当番すら終わっていた。カバンを片手に、自分の机の前に立ち尽くしていた。


「帰らなきゃ…」


ポツリとつぶやき、カバンを手にとった。なんとなくふわふわする足元。疲れてるんだ。今日はもう、帰ってさっさと寝よう。


「…あ………」


門を出たところに、彼女の姿。あの友達と、楽しそうに話している。

ねぇ、俺のことは?俺は…俺はきみと一緒にいたいよ…もっと、もっと…どうして…なんでこっち向いてくれないのなんでなんで俺はこんなに君のこと好きで君のこと一番に考えてるのになんで俺ばっかり好きで辛いのねぇこっち向いてよねぇねぇねぇねぇねぇ。

ドウシテキミハ、ソッチヲ向クノ?


「幸村!」
「…真田?」


突然の聞き慣れた声。はっきりと感覚が戻り、腕を掴まれていることに気づく。頬が涙で濡れていることにも。俺は無意識の内に、彼女にむかって腕を伸ばしていた。真田曰く、フラフラと歩いていくのが見えたので慌てて追いかけてきたのだとか。俺はそんなにも、参っているのか。


「…今日はもう、帰ったら寝ることにするよ」
「そうするといい。目の下も酷いぞ」
「…うん」


真田には感謝を告げ、おとなしく布団に潜った。このまま朝まで寝よう。明日は、彼女と話せるといいな…。

───fin.

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