夢2

□放課後の教室
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しとしとしとしと。
静かな教室に響く、静かな雨音。
シャープペンシルをカチャカチャと振ると、その音はやけに大きく響いた気がした。
イヤホンから流れるお気に入りの曲に沈み込みながら、気ままに手を動かす。
絵を描くのはとても楽しい。
放課後の、誰もいない教室での、ささやかな至福の時間。
友達がいないわけじゃない。
家に居場所がないわけじゃない。
でも、放課後の教室の、この静けさがとても心地よいものだから、つい。

「…お。」

ラフから下書きが、思ったよりうまくいった。
これはちゃんと仕上げようかしら。
なんて思いながらそのページに付箋を貼った。
今日だけで、20枚になるだろうか。
スケッチブックはあっという間に中程まで使ってしまっていた。
家には使用済みのものが積まれている。

「…うん。」

日本刀を構えた、袴姿の女の子。
そのまっすぐな眼光は、誰かに似ている気がした。

「…弦一郎みたいだね。」
「幸村さん。部活は?」
「ちょっと忘れ物をしてね。よくここで絵を描いているのかい?」
「まあ、そんなところ。」
「そうか…またあとで見せておくれよ。」
「気が向いたらね。」

ひらりと手を振って、儚げな笑みを残して、彼は去った。
見せられるような絵ではないな、と、何気なくページを戻ってみて気がついた。
こっちは柳に似ている。
こっちは仁王、こっちは丸井。
みんな、テニス部の面々の面影がある女の子ばかりだ。

「…変なの。あれは男の子。これは女の子。」

無意識のうちに、竹刀を構えた構図を描き込む。
先ほどの日本刀を竹刀に変えただけだ。
そしてら先ほどと同じように袴を描き込んで、黒い帽子をかぶせてみる。
どう見ても、真田弦一郎である。
次々とテニス部の面々をイメージのまま描いてみる。
着物の柳、スーツの柳生と仁王、パティシエの丸井、ラーメン屋の桑原、悪魔の切原、そして…。

「幸村さんか…。」

神の子、幸村精市。
どんなに考えても、ユニフォーム姿しか浮かんでこなかった。
ユニフォーム姿の時だけに見せる、絶対的な気迫。
それに魅入られてからというもの、時々試合を見に行っていたのだった。

「まあ、いいか。」

サラサラと下書きもなしに描いていく。
幾度となく目に焼き付けたその姿。

「…全部ちゃんと描いて、幸村さんに見せようか。笑ってくれたらいいな。」

つい口に出てしまったことに気恥ずかしさを覚えながら、一人であることを確認しホッとした。

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久しぶりに書きました。
長らく更新していませんで、申し訳ありません。
またぼちぼち書いていこうと思いますので、もし読んでいてくださる方がいれば、気長に楽しんでいただけたら幸いです。

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