HIKAGO

□狂
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※佐為ちゃんが病んでるかもしれないようなそんな話。




「愛とは、狂気じみたものなのですよ」

いつだったか、お前はそう言っていた。
そのとき俺はその意味がよくわからなかった。なにせそのときの俺は、その意味を理解するにはあまりに幼かったから。だから、そのときのこともよくは覚えていない。
ただ、「佐為は碁を愛してるんだよな?」と聞いたと思う。
佐為は綺麗に微笑んで、「ええ」と言った。

「じゃあ佐為の中にも、狂気のような感情があるの?」
「ええ…。そういうことですね」

こんなに綺麗で清らで美しい佐為にも、そんな感情があるのだろうかと俺は思った。
すべての汚いものや、醜いものを、その身に吸い込んで浄化してしまうような、そんな美しさをもった佐為に。

「…俺にはよくわからないなぁ」
「ヒカルには、まだ少し難しいかもしれませんね」

くすりと佐為は笑った。
子ども扱いされてなんとなく腹が立ったが、わからないことは事実であるので俺は何も言い返さなかった。
その代わり、

「佐為、じゃあ俺のことは?」

と聞いた。
そうしたら佐為は困ったように眉を下げて、それからこれ以上ないというくらいの極上の笑みを見せて、言った。

「もちろん、あなたのことも、心から愛していますよ」

ときどき、私が私でなくなってしまいそうなほどに、ね。
その言葉の意味は、やっぱりそのときの俺にはわからなかったのだ。



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