DEN-O
□Only You
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「…はぁ…」
ため息と同時に、デンライナーの食堂車へと続くドアが開く。
ドアが開く音に振り返ったらしいハナさんが、僕を見て「おはよう」、と笑う。
その言葉に僕がぎこちない笑顔を返すと、ハナさんは顔を曇らせて僕の方へ歩み寄った。
「良太郎、疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「あ…。ちょっとね…」
「あいつらのせいでしょ?やっぱりイマジン四体なんて無茶よ」
「だ、大丈夫…。少し疲れてるだけだから」
「そう?」
ハナさんは心配そうに僕の顔を覗きこむ。
大丈夫とは言ったけれど、正直キツいのは確かだ。モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス。四人が入れ替わり立ち替わり僕に憑依するもんだから、体がもたない。
まぁでも、賑やかでいいよね。
…………………あれ?
僕はハナさんが座っている席の向かい側に座る。
「ハナさん、モモタロス…どうしたの?」
「あぁ…なんか今日の朝からずっとああなのよ」
「ああ」、というのはどういうことかというと、やたらモモタロスがおとなしいのだ。
誰かに喧嘩をふっかけるのでもなく、ちょっかいを出すのでもなく、知恵の輪をするのでもなく、コーヒーを飲むのでもなく。ただ食堂車の椅子に腰掛け、ぼんやりとしているのだ。
「まぁ、静かでいいんだけど…。あんまり静かだとそれもそれで気になるのよね…。ねぇ、良太郎、ちょっとそれとなくあいつに聞いてみてくれない?」
「え、僕?何を?」
「なんで元気ないのか」
「…わかった」
僕も、モモタロスがあんなに静かなのはちょっと心配だ。
「まぁ、たぶんそんな大した理由じゃないでしょうけど」
そうだといいんだけど。
僕はモモタロスに向き合うように席についた。それでも、モモタロスはこちらに目すら向けない。
「…モモタロス」
そう言うと、モモタロスはちらりとこちらを見て、また目を逸らして、なんだよ、と言った。
「モモタロス…、なんかあった?」
「なんも」
「そう?なんだか、元気ないみたいだから」
「…」
「ねぇ、もし何かあるならちゃんと話して?」
「…」
「ね、モモタロス」
モモタロスは黙ったまま、ちらちらと僕に視線をやって、言うか言うまいか躊躇っているようだった。
けれど結局、モモタロスは別に大したことじゃねぇけど、と、ぽつりと言った。
「けど、何?」
「…」
僕が聞くと、またモモタロスは僕から視線を逸らしてしまう。
そんなに悩んでいるんだろうか。
「…ただ、」
モモタロスが、言いづらそうに小さな声で言う。
「最近お前、俺よりあいつらばっかりだなぁ、と思って」
「あいつら」、と言ってモモタロスが食堂車の奥を指す。
そこではウラタロスがナオミさんのコーヒーを飲んでいて、その隣のテーブルではキンタロスが眠りこけている。リュウタロスはヘッドホンをして絵を描いている。
「そう?」
「そう」
「…僕ウラタロス達とばかりいる?」
「戦いのときは亀公、熊公ばっかだしよ、いつもは小僧に手焼いて」
「…うーん、」
それってつまり。
僕は少しテーブルに乗り出して、顔を少しモモタロスに近付けて、そっと囁いた。
「モモタロス、妬いてる?」
そう言ったら、モモタロスは慌てたように見開いた瞳をこっちに向けた。
「なっ…んなわけないだろ!!」
バタバタと顔の前で手を振りながらモモタロスが言う。
僕は焦るモモタロスを見て、にっこり笑った。
ハナさんの言っていた通りだ。大した理由じゃなかったね。
「モモタロス、」
「…なんだよ」
「心配しなくたっていいのに」
「は?」
「もちろんみんな大好きだけど…、モモタロスが一番だよ」
「…っ!」
「だから元気出して。ね?」
モモタロスは口をパクパクさせて、僕を見つめていたけれど、突然テーブルの向こうから、ぎゅっ、と、僕を抱きしめてきた。
「ホントか?」
頭の上から声が降ってくる。
「ホント。」
「絶対?」
「絶対。」
モモタロスの、僕を抱きしめる力が強くなる。
「ありがとな、良太郎」
そう言って、僕の耳元で、小さな声で、モモタロスが囁く。僕以外の誰にも、聞こえないように。
「…愛してる」
「…うん」
僕も、と言って、モモタロスの背中に回した腕に力を込める。
もう少し、こうしていたいなぁ。
そんな風に思ったのだけど。
「あー、モモタロス何してんの!?ずるいずるい!!」
リュウタロスが僕に抱きついてきて、モモタロスがうるせぇ!!と言って僕から飛び退いて、それでモモタロスはリュウタロスと喧嘩を始めてしまった。
ちょっぴり残念だったけど、でも、やっぱり、賑やかな方がモモタロスには似合ってるよね。