BKMN.

□HERO
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原作129話捏造




「福田さん、助けてください…!」

半ば叫ぶような蒼樹嬢の声に血の気が引いていく。
蒼樹嬢の方から電話をくれるなんて久々だった。そんな、俺の少し浮ついた気分は、蒼樹嬢の声で一気に吹っ飛んだ。

「な、何があった!?」
「中井さんが…家に押し掛けて来て…ひどく酔ってるんです…」
「っ、中井さんが!?」

昼に会ったばかりの人物の名前を出されて、困惑する。
女の子について行ったんじゃ…。

「それで!?…っ蒼樹嬢、ぜってぇ外出るなよ!!」

逸る気持ちで、ジャケットをひったくって羽織る。
早く蒼樹嬢のところに行かなければ。

「…はい…。それより、平丸さんが…」
「平丸さん?」

ズキリと心臓が疼く。マンションの階段を駆け下りていた足が止まる。
なんでここで平丸さんの名前が?

「平丸さんが…私を助けに来てくれたんですけど…っ。もう…」

そうか。きっとあの平丸さんのことだ。蒼樹嬢のためにと中井さんに無謀な勝負でも挑んでいるんだろう。

───彼氏が助けに、か。
ほとんど無意識に溜め息が出る。
そうだよな。蒼樹嬢には平丸さんがいるもんな。俺は二番手、ってか。
唇を強く噛んだら、口の中に鉄の味が広がった。

早く行かなきゃ。蒼樹嬢のところへ。俺の中で俺自身がそう叫ぶ。けれど足が動かない。
いいじゃないか。俺なんか必要ない。蒼樹嬢には、平丸さんがいる。もうひとつ、同じ声が主張する。好きなやつの彼氏を助けに行くのか?仕事もあるのに?どんだけお人好しなんだ。
冷たい風が、頬を突き刺す。

どうする。
俺は携帯を握り締めた。まだ蒼樹嬢との通話は続いている。俺が黙っているからか、携帯の向こうで蒼樹嬢も押し黙ったままだ。
好きなやつの彼氏のピンチを救いに行く。確かに馬鹿げた話だ。放っておけばいい。
中井さんが蒼樹嬢の家に来た理由。平丸さんに全く関係がないとも言えないんだろう。彼らの問題だ。
そう片付けてしまえばそれまで。俺の出る幕はない。
………でも。

「蒼樹嬢」
「…はい」

俺はもう一度携帯を強く握った。ひとつ大きく息を吸う。

「なんで俺に電話した?俺じゃなくても、真城くん、高木くん、新妻師匠だって力になってくれただろう。もっと言えば福田組じゃなくたって、あんたの担当の山久さんや平丸さんの担当の吉田さんでも良かったはずだ。なんで俺にした?」

俺は口を挟む隙もないように一気にまくしたてた。携帯の向こうで、蒼樹嬢が息をのむのがわかる。

「…………わかりません」

沈黙の後、蒼樹嬢が小さな声で言う。

「わからないけれど、なぜか、福田さんに電話をかけていたんです。気付いたら…。もし迷惑でしたらごめんなさい。でも…福田さんしかいなかったんです。迷いもせず、あなたを選んでしまいました」

自嘲のような笑みがふっ、と漏れる。
わかってる。答えはとっくに出てるんだ。

「蒼樹嬢」
「はい」

お人好しでもなんでもいい。
だって、

「…俺を頼ってくれたんだな」
「…っ、はい」

彼女が俺を必要としてくれている。理由なんてそれだけで十分だ。

「待ってろ蒼樹嬢。その二人ちゃんと見てろよ!!」
「福田さん…」

止まっていた足が突然猛スピードで動きだす。バイクに跨がり、ヘルメットを被る。

たとえこの気持ちが報われることがなくても。届くことがなくても。

俺は、いつだって、蒼樹嬢の元へ駆けつける。
彼女が必要としてくれるなら。

俺は蒼樹嬢との通話を切って、バイクを走らせた。夜の静けさに重低音が響く。

あぁ、やっぱり俺はお人好しだ。
蒼樹嬢の家までの最短ルートを全速力で駆け抜けながら、俺は頭の片隅でそんなことを思っていた。




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