□*Auxilium-想い想われ、追い追われ- *
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箱庭世界と称された空間。


剣を手にしたまま地面に伏せた少女は動かない。


綺麗に咲いていた花壇は攻撃の反動で無残な姿を遂げ、高い天井もガラスが割れて空が剥き出しになっている。


息一つ乱していない伏見は倒れている少女に歩み寄った。


「おい、死んだか?」


その言葉に応えるように少女の体がピクッと動く。


「本気で戦えよ。つまんねーだろうが」


「…こ、んな…」


「!」


「こんなことをして何の意味がある…」


「あ?」


「キミが私を殺したところで…私は死なない」


「だから死ぬまで何度でも殺すんだよ」


「何…?」


「お前を殺した後は千歳、千歳を殺した後は蒼生を殺す」


「!!」


「そうすれば壊れる筈なんだ」


「“壊れる”…?」


「立てよ、まだ殺れんだろ」


「……………」


傷だらけの体で何とか立ち上がる。


「伏見、この箱庭から出て行け」


「そりゃ聞けねえ頼みだな」


「蒼生が記憶を思い出した。
“箱”を失えばこの世界も消える」


「そう邪険に扱うなよ」


「…キミは変わったな、伏見」


「俺は何も変わっちゃいねえよ」


「キミは私を殺すと言ったな」


「それがどうした?」


「そう急がなくても私は死ぬ。
そして罪を犯した『あの子』も」


「それじゃ意味ねえんだよ。
俺の手で殺さねえとな」


「…どうしてそこまで殺すことにこだわる?」


「“壊したいものがある”んだよ」


「だからその壊したいものって何だ」


「てめえは知らなくていい。
どうせ俺に殺されて死ぬんだからな」


「…キミは知らないだろう」


「あ?」


「彼女がどんな覚悟で罪を犯したか」


「……………」


「どんな思いで彼を生き返らせたか」


「…自分の命を犠牲にしてまで死んだ兄貴を生き返されるたぁ、正気の沙汰じゃねぇな」


「キミには護りたいものはないのか」


「ねえな、そんな邪魔なモン」


「だからキミは誰かを失った者の気持ちなど判らないんだ」


「…うるせえよ」


伏見は苛立つ様に言葉を吐いて剣を構える。


「そんな事より早く続きやろうぜ」


「……………」


「まだどっちも死んでねえだろうが」


「!!」


すると伏見は少女の視界から消えた。


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