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□市丸ギンという男は
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「チッ…どいつもこいつも容赦なしかよ。
こっちは女の子だぞアホ共が。」
苛立ちを浮かべて人気のない道をズカズカと進む。
「残るは三番隊だけか。
あのキツネ目どこ行きやがった…」
「なんやボクのこと呼んだ?」
突如聞こえた声に思わず足を止める。
「…………………」
初めて会った時から不快だと思った
今も昔も変わらない
私が否定する声────────。
「聞き間違いやったら堪忍なァ。
もしかしてボクの悪口言うてなかった?」
「………………」
「久しぶりやね」
振り返ると淡い水色の双眸が深く突き刺さる。
その視線に流歌は顔をしかめた。
「市丸…ギン…」
「隊長を呼び捨てにしたらアカンよ」
睨み付ければ市丸はクスッと笑みを漏らす。
「なーんてな、冗談や冗談」
こちらに歩いて来て流歌の前で立ち止まる。
「怒った?」
ニヤリと笑った市丸に流歌は無言で冷たい目を向けた。
「…なんや面白くないなァ。昔の君はボクがからかうといつも反抗してきたのに。あ、今は神崎流歌君やから仕方ないんやな」
「…“雑音”が喧しいな」
「!」
「そんなに人をからかうのが面白いか?」
低い声で睨み付ければ市丸は楽しそうな笑みを浮かべて言った。
「君をからかうんはボクの愉しみなんよ」
「ハッ、最低な愉しみ方だな」
「ボクを探してたんやろ?」
「書類を届けに来た」
持っていた書類を市丸の胸に押しつける。
すると市丸はクスッと小さく笑った。
「冴島桃香ちゃん刺したんやって?」
「!」
書類に目を通しながら市丸は面白そうに笑う。
「ボクも見物したかったなァ」
「悪趣味め…」
「今の状況を楽しんどる君の方が悪趣味とちがう?」
「なに?」
「君みたいな得体の知れん子に喧嘩売るなんてあの子度胸あるわァ。下手したらホンマに殺されてたかも知れへんのに…」
「どういう意味だ」
「そのままの意味や」
市丸の存在に流歌は苛立ちを浮かべて舌打ちをした。
「キミが嫌いだ」
「ボクかて君が嫌いや」
キッと市丸を睨み付ける流歌。
すると市丸は深い笑みを浮かべた。
「ホンマ見てて飽きないなァ───梨央チャン」
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