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□遠き日の思い出
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ある日の休日。
「今日も見事な晴天だ」
どこまでも澄み渡る青い空を見上げて微笑む。
「先に着いてるだろうな」
待ち合わせ場所に着くと空を見上げた霙がいた。
「み────」
声をかけようとして止める。
その寂しげな瞳は普段の元気な霙からは少しかけ離れていた。空を見たまま思い耽るように悲しい表情を浮かべている。
「お待たせ」
「!」
視線を梨央に移すと霙は頬を膨らませる。
「5分遅刻だよ、梨央ちゃん」
「ごめんごめん」
全く悪びれていない梨央の態度に霙は呆れたように云う。
「梨央ちゃんの遅刻癖は今に始まったことじゃないからいーけど」
「ごめんって」
苦笑を浮かべる。
「ずっと空を眺めてたの?」
「雲を見てたの」
「雲?」
「昔は…三人で見てたんだ」
また寂しそうな瞳を宿す。
「あの雲の形、猫に似てる」
と、霙は猫の形をした雲を指差す。
「あはは、ホントだ」
「あっちの雲はリボンに似てる」
「言われてみれば確かに」
「曇って美味しいのかなー?」
「さあ、食べたことない」
「どんな味するんだろ」
「案外綿菓子みたいかもよ」
「気になる〜」
「作ってみればいいさ。キミは天才なんだから」
「検討する」
本気で雲を作る気だろうか。
霙の目が真剣味を帯びている。
「今日はどこに行くの?」
「久しぶりに甘味処に行こうか」
「やったー!」
「詩調も誘ったんだけど先約があるみたいで」
「先約?」
「乱菊さんの付き合いみたい」
「そっか。でもしぃちゃんが霙達以外の人と関わりを持つなんて驚きだよねー。出会った頃に比べたらすごい進歩だよ」
「人は変わろうと思えば変われるんだ。ただ、変わろうとする覚悟があるかないかの違いだけ。彼女は少しずつ変わってきてる。前と比べて笑うことが多くなったしな」
「変わる覚悟…。
踏み出す勇気が必要ってこと?」
「そういうことだ」
「でも…しぃちゃんは…」
「ん?」
「誰も見てない所で悲しそうな顔してる」
「え?」
「この前だって────……」
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