novel

□世界が壊れる音がした。
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つかれた。

一言で言うならば“そう”だ。

子供のフリ、演技、ウソ、偽り、誤魔化し。

どこまで自分を偽りつづけたらいいのか、そう考えたとき


『それはお前の罪だ。』


脳内で自分、否、“工藤新一”の声が響いた気がした。



世界が壊れる音がした。



「コナンくーん?朝よ。」
「…ゴホ、おはよう、蘭ねぇちゃん、なんか今日風邪ひいちゃったみたい。」
「嘘!?…ちょっとおでこいい?」
「うん。」
「……うわ、ちょっと熱出てるみたいね。じゃあ、今日は学校休もうか。お父さんもいるし大丈夫でしょ。」


俺の額に手を当てたままの蘭を見ながら思考に浸る。
何か、変な夢を見た気がして気分が悪いんだ。

それがわからないのが気持ち悪くて考えこんでいたら気分が悪くなって……。
知恵熱か…?
高2にもなって『名探偵』と言われていた俺がかよ。…いや、今は小1なんだっけ。


あぁ、気持ち悪い。なんという悪循環…。


「じゃあ、いってきまーす。お父さん、コナン君のことよろしくね。コナン君、今日は一日ゆっくり休んでね。」


そう言った蘭に心配かけまいと笑顔で手を振り、不器用に心配してくるおっちゃんに大丈夫、という意を示してから二階の寝室に閉じこもった。


30分ほど大人しく布団に入っていたが、不意にトイレに行きたくなり洗面所へ向かう。


顔をあげると鏡に映った自分の姿が目に入った


『コレは本当に“お前”か…?』


頭の中で声が響く。


気持ち悪い。お前は誰だ。俺は工藤新一だ。本当に?実は誰かに重ねてただけじゃないのか。本当の俺は小学一年生で。江戸川コナンなんてふざけた名前の奴がいてたまるか。それこそ自分の作った仮想でしかない。じゃあ俺はなんなんだ。江戸川コナン?じゃあ工藤新一は、新一兄ちゃんは誰だっけ。


ぐるぐるぐるぐる。
眩暈と吐き気がする。



ガシャン

不意に大きな音が耳に入った。

次いでバタバタと誰かの駆けてくるような大きな足音。


「コナン!?大丈夫か……っておまえ、なにしてっ、」


下の階にいたおっちゃんはドアを開けて怒鳴ってきたかと思うと不意に息を飲んだ。
何で俺を見てるんだ?
何でそんな怯えた様な、化け物にでも出会ったような、縋るような、『眼』をしてる…?


「お前、がやったのか…?」


コレ、と言われ指先に視線を持っていくと目に入るのはガラスの欠片に映った紅く染まった自分の姿。


「あ、はは、はははっ、あははははっ、」


どうしよう。笑いが止まらない。
怯えたような目で見られているぞ。
自分が守ると決めた相手に。
騙してまでもまもろうと。…騙してまでも?

騙してなんかないじゃないか。
ただ俺、ボクは新一兄ちゃんの代わりに蘭姉ちゃんがさびしがらないように、おっちゃんにしんぱいをかけないように、
しんいちにいちゃんよりもっともっと、


カシャーン、とどこかで、
世界が壊れる音がした。



(自分がだれかすら分からなくなるこの生活で、)
(唯一の活路と破壊は同義だった。)
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