二番目

□屍
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家に帰ると彼が屍になっていた。
踏んでも、蹴ってもピクリとも、しないのだ。
息もなく、身体も冷たい。

テーブルの上には汚い字で殴り書きされた紙切れ。

『日付変わるまでには帰る』

時計を見れば、日付けが変わるまで三時間程。
床に転がる彼の屍を横目に二人分の夜ご飯の支度をした。
夕ご飯の支度が整っても、床に倒れたまま動かないので、しょうがないから先に風呂にはいる事にした。

いつもは狭いと文句を言いながら二人で窮屈に入る浴槽が今日はやけに広く感じた。

彼の職業は死神らしい。
日々虚とか言う悪霊と戦う正義の見方だとか。
曖昧な言い方しかできないのは私に霊とかそう言う類のものが見えないから。
彼の死神の姿を見た事がない。
たまに、傷だらけで帰ってきたり、何かに引き摺られて酷い状態で帰ってくる事もあるからきっと大変な仕事なのだろう。
彼と一緒にいてもう何年も経つが死神についての知識は乏しい。
人間よりも時の流れが遅いって、いつか言ってたっけ。

確かに出会ってから今まで彼の外見はずっと変わらない。

私もそこまで変わってはいないが、
歳もとったし、化粧のノリも悪くなってきた。
ふと見た掌はお湯でふ焼けて老婆のようだった。
いつか私が歳をとってこんな風にシワシワになっても、彼は今と変わらぬ姿なのだろうか。
考える程心の中が不安でいっぱいになった。
いっぱいになってはちきれそうだったので、浴槽に潜った。
息ができなくて苦しかったが温かさだけの世界は心地よかった。

このまま息をするのをや、眠りにつけば、
彼と同じ世界を見られるのだろうか


瞼を閉じれば、意識が遠のいた。




「…ぃ…おい。」

意識の外で聞き慣れた声がした。
薄っすら目を開けばよく知った人相の悪い顔。
筋肉質な腕に抱きかかえられていた

「自分家の風呂場で溺れるとはとんだ阿呆…」

彼の呆れ顔も愛おしく思えてしまうから今日の私は何処か変だ。

「お帰り。」

胸に顔を埋めれば、浴槽の中とは違う温かさと規則的な鼓動

「ああ…」

胸板に顔を埋めているから表情は見えなかったが、
私の頭を撫でるてはいつもより少し優しかった。

「今日も悪いやつ倒してきたの?」
「そんな所だ。」
「お疲れ様」
「ん…」
「ねえ…一角?」
「ん?」
「いつか、私が…」

シワシワのお婆ちゃんになってもそばにいてくれる?

「何だ?」
「ん、なんでもない。」
「んだよ…」

少し困ったような、呆れたような
そんな表情の彼に強く抱きしめられた。
それが心地よくて、
再び瞼を閉じた。





朝日がさしていた。
目覚めたそこは、ベッドの上。
隣の彼は冷たくて息はなかった。

『誕生日おめでとう。行ってくる。』

相変わらずの汚い字で殴り書きされた紙切れ。
それを拾い上げた右手の薬指に光る指輪。

「普通左手でしょ…」

思わず笑ってしまった。
彼らしいというのか…
まあ、いいや。
左手の薬指はまた今度。
楽しみにしておこう。

「ありがとう。」

隣の彼の屍に呟き、願った。

私が老いて朽ちるその日まで
貴方の隣に居られるように。







むきたんハッピーバースデー!
…なのに暗くてごめん!
最初はもっと甘かったの!(言い訳)
時間あればもう一個書く…多分。た、多分…

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