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□スキ。
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「ねー。」
「…」
「ねえってば。」
「…」

何度呼んでも、一向に振り向く気配はもちろん、返事すらない阿近。


「莫迦…」

今日は久々の二人そろっての非番の日
たまには外で二人でゆっくり…


の、

ハズだった。


なのに…


昨夜。

「わりぃ、明日終わらせちゃいてぇ仕事があるんだ。」

とか何とかで、
今日も自分の実験室に籠もりっきり…
同棲しているのに
月の殆どは実験室に籠もり、
帰ってこない

せめてもと思って
昼食を作って持って行ったものの
先程の反応。

久し振りに、阿近と
二人でゆっくり出来ると思ったのに…
期待した私が莫迦みたい。

思わず涙が出る…

付き合ってる筈なのに…
お互い好きな筈なのに…

これじゃ、私ばっかり好きみたい…

涙は止まらず、
机に突っ伏し、気が付けば
私は泣き疲れて
寝てしまっていた。




「よう、起きたか。」

顔をあげると煙草片手に
私を見下ろす阿近が居た。

窓からは夕日が射していた。

悪びれも無く
煙草を吸う阿近に
また、
涙がでる。

…やっぱり、
私ばっかりが好きみたい。


「何泣いてんだよ。」

こんな時でも、
優しい言葉をかけてこないのが阿近。

「莫迦。」

俯いたまま呟くと
思いっきり頭を引っ張られる

「ちょ、痛いッ離しっ…ん…」

乱暴に重ねられた唇。
徐々に深くなる…

「ん…あ、阿近ッ」

慌てて突き飛ばすと
顔色一つ変えず
私を見つめる阿近。

「莫迦はお前だろ。」

そう言うと
私を抱き寄せ


「寂しいなら、そう言えよ。」

そう耳元で囁くと
首筋に噛み付いた。

「今からたっぷり構ってやるよ。」

そう言って阿近は
今度は優しく唇を重ねた。

あれだけ溢れていた
怒りとか悲しみが
それだけで…
全て消えていった。


悔しいけど
やっぱり
阿近が好き。

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