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□距離
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先週の終わりに
初雪が降って
人肌が恋しい季節が
今年もやってきた。





いつだって
手を伸ばせば触れる距離に
貴方はいるのに
何故だか
貴方と触れるか触れないか
そんな微妙な距離にいる…

「いつまでこのままなんだか…」
「何がだよ。」

物思いに更けて
ぽつりと呟けば
たった今、考えてた彼の声がした。

「いつから居たの?」
「さっき。とっくにホームルーム終わったぞ。」

気が付けば帰りのホームルームは
とうの昔に終わっていたらしく
教室には私と阿近の二人だけだった。
「帰るぞ。」

そう言って阿近は
真っ黒いマフラーを巻いて
鞄を持つ。

「私もマフラー持って来たら良かったな…」

風邪ひきそう。そう言いながら
コートに手を通す。

「馬鹿だから風邪ひかねえよ。」

と、何の悪びれもなく言う阿近。
こんなのは、毎度の事だ。

幼い頃から、
私の隣には阿近が居た。

高校に入り
告白された事もあったが
お互い、彼氏彼女を
つくる事はなかった。

言わなくても
阿近は私にとって大切な人で
大好きな人だ。

それは、阿近も変わらない
ハズなのだが、
どちらも好きとは
告げた事はなく

やっぱり、言葉がなければ
不安なはずなのに
口を開けばお互い
悪態ばかり…

「ボサッとしてっと置いて行くぞ。」

何て言いながらも
ちゃんと待っていてくれる
そんな所も
嫌いじゃない。

いつも通り
会話も殆どないまま
生徒玄関へと並んで歩く。



「あ、阿近先輩!」

下駄箱の前に居た集団の一人が
阿近のもとへ寄ってくる。

「よお。修兵。」
「彼女っすか?」

私にペコリと頭を下げる。

「見えるか?」

表情一つ変えずに阿近が言う。

「はい。お似合いですね」

そう言って
修兵君が無邪気な笑顔を見せた。
お似合い。と言われた事が
なんだか照れくさくて
目線を修兵君から反らした。

「ないない。俺にはもっと別嬪さんが似合うって」

そう笑いながらの
いつも通りの阿近の言葉。

「じゃあ、つき合ってないんですか?」
「んー…」

私を一瞥しながら、
曖昧な返事を返す阿近。

「付き合ってないなら俺に紹介して下さいよ。」

そう言って
また、あたしに笑顔を向ける。

「あー…無理無理。コイツ、俺に惚れてっから。」

な。と、当たり前のように返す阿近
いつ、私が阿近にホレてると言ったのだろう。
阿近の顔には
修兵君と真逆の邪気いっぱいの笑み。

「誰がアンタみたいな変人に惚れるのよ。」

私も心にも無い事を言い返す。

「俺だって御前みたいな色気無い奴好かねえよ。」
「なによ。私だって家に籠もってばっかりのアンタなんかお断りよ。」

なんて、
いつも通りの口喧嘩。
でも、
心に阿近の言葉が刺さった。

好かねえよ
か。そうだよね…

「なんだ、やっぱりお似合いじゃないっすか」

尚も口喧嘩を続ける私達を見て

「阿近先輩に飽きたらいつでも俺ん所来てくださいね。」

そう言って笑いながら去ってく修兵君。



そして、私と阿近は
また、会話も無く校門を出た。

やっぱり
阿近にとって、私は
腐れ縁の友達でしかないのだろうか。
好きだと思っているのは
私だけなのだろうか…

そんな事を考えていると
阿近の歩みが止まる。

「お前、眉間に皺寄ってんぞ。」

そう言って私の額を人差し指ではね
何事も無かったかのように
歩き出した。

「好きじゃないの?私の事。」

立ち止まったまま
阿近に訪ねる。

「どうだろな。お前が一番解ってるはずだろ?」

そう言って
あたしに歩み寄る。

「阿近の馬鹿」

そしてまた、
二人で歩く。

「悪かった。」

阿近の手が私の手を掴んだ

「阿近…?」

少し驚き、阿近を見上げるも
相変わらずの無表情。

「何だよ。」

私を一瞥する。

「好き。」
「知ってる。」

相変わらずの返事だけど
今日は繋がれた手から
阿近の手の温かさが伝わる。

言わないけど
阿近の気持ちも同じはず。

貴方は私の大好きな人。



相変わらず
会話のない帰り道。
どちらからと無く
指を絡めた。





END

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