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□未来
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「おじゃましまーす。」
「おう。てきとーに座って。」

そう言われたので
ベッドの前に腰掛けた。
恋次君はブレザーのネクタイを緩めるとベッドにドカッと座る。

「…。」
「…。」

沈黙が続く。
それもそのはず。
私が恋次君の家に来るのは初めての事。
私の片思いから始まった私達。
数ヶ月前につき合い始めたばかりで
まだ手を繋ぐ事もままならない。

それなのに、いきなりの
恋次君の部屋。
邪な妄想ばかりが頭を過ぎる。

「と、取りあえず何か飲み物取ってくるわ。」

気まずさに耐えきれなくなった恋次君が
部屋を出る…

一人残された私は
改めて部屋を見渡す。

意外にも部屋は片づいていて
漫画なんかも
きちんと、本棚に整頓されて
仕舞われている。

本棚に並んでいるのは
どれもスポーツ物の漫画。

と、
本棚の隅に黒い皮で出来た本…
卒業アルバムだ…

凄く気になる。
…見たい。


と、思うものの
流石に勝手に見るのは
不味いよね?
でも、見たいな…

何て頭の中で葛藤していると

「わりぃ、烏龍茶しか無かったけど…」

そう言って戻ってきた恋次君に
慌てる私。

「ん?どうかしたか?」

不思議そうに私に歩み寄る

「や、漫画好きなんだ?」
「結構見るぜ?」

そう言って本棚に向かい

「殆どスポーツ物だけどな」

そう言って笑う。

「そこの…卒アル?」

そんな興味ない素振りを見せる私。

「おう。中学の時のな、見るか?」

私がコクリと頷くと
恋次君は卒業アルバムを持って
私の隣に腰掛ける。

体が触れ合う距離。
それだけでドキドキしてしまう。

「おー…自分で見るのも久し振りだな…」

何て言いながら、卒業アルバムを開いていく。

中に移るのは
沢山の友達に囲まれた
今より少し幼い恋次君。

「なんか…恥ずかしいな。」

そう言って恋次君は照れくさそうに笑った。

「私は、昔の恋次君見れて嬉しいけど?」
「こんな餓鬼な俺なんて見ても…」
「でも格好いいな…」
「そ、そうか?」

見上げれば、恋次君の顔は
少し赤くなっていた。
次第に私もなんだか恥ずかしくなってきて

「…。」
「…。」

二人沈黙の侭卒業アルバムの
ページをめくった。

学校祭の写真。
スーツ姿の恋次君が写っていた。

「俺のクラス執事喫茶やってよ…」

結構人気あったんだぜ
と、笑う恋次君。

そりゃ、人気あるよ…
だって、恋次君格好いいもん。

何て思いながら、
また、卒業アルバムに目を移す…
すると一枚

女の子の肩を抱いて
笑顔で写る恋次君の姿。

「あ…」

恋次君もそれを見つけたようで
ばつが悪そうな顔をする。

「付き合ってたの?」
「ん…まぁ…」

そうだよね。
こんなに格好いい恋次君だもん。
中学で付き合っていた人が居ても
不思議じゃない…
でも、
私の中には何とも言えない苦さが残る…

恋次君の初めて好きになった人って
どんな人だろう。
今まで、どんな恋愛をしてきたんだろう…


そんな事、
考え出したらキリがないのは
解っているのに
考え出すと止まらなくて…

昔の彼女に嫉妬するなんて…
私馬鹿みたい…


「でもよ、今はお前が好きだから。」

暫くの沈黙の後
恋次君が口を開いた。

「うん…」
「後よ…今までの中で一番好きだから。」

そう言った恋次君の顔は赤くて
凄く恥ずかしかったハズなのに
気持ちを言葉にしてくれた
それが凄く嬉しかった。

「私も…恋次君が好き。」

多分私の顔も、恋次君に負けないぐらい赤いのだろう。

「これからも、俺はお前が一番だからよ…」

だからその…と、
言葉を濁らせ…

私に顔を近づけると
そっと唇を重ねた。

「だから、さっきみたいな寂しそうな顔すんな。」

そう言った恋次君はさっきより
更に顔を真っ赤にしていた。

「うん。」

そんな恋次君を見ていると
自然と笑顔になれた。

初めてじゃなくても
前にどんな人と付き合ってても
今は私の隣にいてくれる。
未来を約束してくれる。

それだけで充分だ。







END

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