決められた運命

□第8衝突
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―side:絵麻―


右「あと、お任せしていいですか」


肩からエプロンを外しながら右京さんが言った。

右「明日公判がありまして。その準備をしたいので、できたらお願いしたいのですが?」
絵「はい、大丈夫ですよ!」

右「祈織は講習で遅くなるので外で食べると電話がありました。風斗も今晩はテレビ局に泊まるそうです」
絵「そうなんですか………大変ですね」
右「祈織は受験日が迫っていますから。風斗も正月番組の収録が立て込む時期です。ですから、当然でしょうね」



みんな大変なんだな………と考えていると、ただいま帰りましたー、という葵さんの声が聞こえた。


右「お帰りなさい白百合さん。申し訳ありませんが、夕食は絵麻さんに用意してもらってください」
 『右京さんはお仕事ですか?がんばってくださいね』



ありがとうございます、と右京さんが葵さんに笑いかけたときに、葵さんの携帯がなった。


 『はい、もしもし――――雅臣さん?はい………そうなんですか、分かりました。弥くんですか?もう寝ているんじゃないかと………』


電話の相手は雅臣さんのようだった。前はそんなに仲がいいようには見えなかったけど……いつの間にか電話番号を交換していたみたい。


 『そんなこと気にしていないですから。お仕事、がんばってくださいね!』



右「今の電話、雅臣兄さんからですか?」
 『はい、容態が急変した患者さんがいたみたいで………今日も病院に泊まることにしたそうです』
右「そうですか。………しかし、なぜあなたの電話にかかってきたのでしょう?今まではわたしに来ていたのですが」



右京さんの眉間にしわがよっている。少し気まずい雰囲気がキッチンに流れた。


右「では、あとはよろしくお願いします絵麻さん」
絵「はい、任せてください」



右京さんがリビングを通って廊下に通じる扉へ向かう。
そのとき入れ替わるようにリビングに入ってきた人影があった。



右「………梓?」
梓「京兄……」



梓さんはひどく元気がなかった。右京さんが夕食について話してから、梓さんの脇を通り抜けようとしたときだった。


梓「ねえ、椿………見た?」
 『椿さん、ですか?』


右京さんも立ち止まって梓さんの話を聞いている。


梓「先にスタジオを出たんだけど……今、部屋を見たらいなかったから」
右「さあ、知りませんね」
梓「そう。……わかった」

梓さんがきびすを返す。廊下を立ち去っていく足音が聞こえて、少しして扉の閉じる音が聞こえた。





―――――――――――――――――――



侑「あー、腹減った!」


期末試験の成績が悪かったせいで学校の補習に言っていた侑介くんが帰ってきた。

侑「それより、メシは?」
絵「カレーがあるけど………さっき冷蔵庫に入れちゃったから、温め直さないと」
侑「えーっ!」




侑介くんが悲痛な声を上げる。


侑「ちょっと何それ!?あーもう、腹へってしにそうなのに。待ってられねえ、コンビニでなんか買ってくる!」


侑介くんが廊下へ通じる扉へ向かったとき、また入れ替わりに入ってくる人影があった。


要「はぁ……悲しすぎるな、ゆーちゃんは」
侑「かな兄!」



今度は要さんが立っていた。法事から直帰したらしく、袈裟姿のままだ。


要「せっかく愛する女性が手料理を作ってくれたというのに、たったの数分が待てずにコンビニメシとは……。切なすぎる」
侑「ちょ、かな兄!そういう言い方やめろってば!」



でも要さんは侑介くんを無視してまっすぐわたしの方に近づいてきた。


要「妹ちゃん、俺はいただくよ。何時間でも待つから、愛でいっぱいのカレー温めてくれるかな?もっとも俺は、カレーよりも食べたいものがあるんだけど……ね」



指がすっとわたしのあごを捉えるように伸びてくる。


また始まった……、そう思ったときだった。



 「また始まった……」
 「ちぃから離れろ!この破壊坊主!」
 『要さん、絵麻ちゃんに何やっているんですか……?』



まるでわたしの心を読んだかの様な声がした。ジュリが全身の毛を逆立てて、要さんを睨んでいる。
にこにこと恐ろしいくらいに笑顔を見せている葵さんのとなりにジュリを肩に乗せてたっていたのは、琉生さんだった。


というか、琉生さん!?なんで琉生さんがジュリを連れてるの!?


要「る、るーちゃんに葵ちゃん………?」
ジ「もう、ちぃには指一本触れさせん!あの海の時は思わず不覚を取ったが……」
琉「海……」
 『それって、なんのことですかね、要さん?』



琉生さんがいきなり言った。それに続いて、葵さんも要さんに問い詰める。

い、今のやっぱり、琉生さんジュリの言葉が分かっていたんだ………
何度かそうじゃないかなと思ったことはあったけど、もう間違いなさそうだ。




琉「要兄さん、海で、ちぃちゃんに何………したの?」
要「お、落ち着こうか、るーちゃん……」
 『わたしたちは落ち着いてますよ。それとも………言えないことなんですか?』
要「あはは、葵ちゃんまで……」


珍しく、要さんが動揺しているのが分かった。


琉「教えて。何、したの?」
要「だから、何もしてないってば」


ジ「嘘を言うな!私は見たんだぞ」



ジュリが叫ぶ。わたし以外の人にはキィキィとしか聞こえないはず………。でも、ここにはわたし以外にも聞こえている人がいるのだ。




琉「ジュリさん、見たって」
要「はあっ!?るーちゃん、何言ってんだ?確かにリスくんはあの場にいたけど………」


ハッとして要さんが言葉を呑みこむ。でも、もう遅かったみたい。


ジ「語るに落ちたな、歩く煩悩のカタマリめ!」
 『要さん、内容次第では……分かってますよね?』


ジュリが猛烈な勢いで叫ぶ。葵さんとジュリの殺気を感じたのか、要さんはさっと廊下へ駆け出していった。


要「ごめんね、妹ちゃん。また後で!」
ジ「こら待て!この色魔め!!」
琉「ジュリさん、もういいよ」


追いかけようとするジュリを琉生さんがとめる。

ジ「しかしだな……」
琉「それより、ちぃちゃんのそばに。僕……ちぃちゃんを守りたい」


琉生さんがまっすぐわたしを見つめて言った言葉に、心臓がドキンと鳴るのを感じた。


琉「だって僕たち、"ちぃちゃんを守る会"のメンバー、だから」
ジ「……ああ、そうだったな」


は、はい!?
なんですか、その恥ずかしい名前の会は?



琉「ジュリさん、僕がんばる。ジュリさんと葵ちゃんだけだと、大変」
 『琉生さんがいてくれると安心ですね!』
ジ「ああ、ちぃは必ず守るぞ!」


その会、葵さんも入っていたんだ……

意気投合している3人(?)を見て、大きな溜息をついた。
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