決められた運命

□第9衝突
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―side:絵麻―


1月2日、お正月のお節を食べ終えてみんながリビングでのんびりしていたときのこと。

テレビで天気予報を見ていた椿さんがいきなりとんでもないことをつぶやいた。


椿「これから、スノボに行かね?」
 『スノーボード、ですか?』


みんなが呆気にとられたんだけど、弥ちゃんだけが、唯一その発言に反応した。


弥「僕、スノボやってみたい!」


弥ちゃんのこの一言で、状況が大きく変化した。
1月3日は、弥ちゃんの誕生日なのだ。
夕食の前にも雅臣さんと右京さんがそのことをきにしていて、



右「弥も11歳ですから、いつまでもオモチャというのはどうでしょうか?」
雅「そうだよね………それに、品物ならいつでも買えるし。心に残る、何か特別なことをしてあげたいよね」



なんていう会話をしていたばかりだった。

椿さんのものすごく突飛な思いつきは雅臣さんに何かのインスピレーションを与えたらしい。


雅「弥、行きたいかな?」
弥「うん、行きたい!!」


……というわけで、椿さんのつぶやきから約2時間が過ぎた頃。わたしたちは雅臣さんと要さんの車に分かれて関越自動車道を北へ向かっていた。

目指すは新潟県の苗場スキー場。
幸い、美和さんのツテでホテルの部屋を取ることができたのだ。

……ただ、受験を間近に控えている祈織さんと風斗くん、臨時のお仕事が入ってお正月返上で店に出ている琉生さんや部活の練習で忙しい昴さんは参加できなかった。

それに右京さんも

右「留守は私が守ります。雅臣兄さん、みんなをよろしくお願いします」

と言って残ることになったのだ。


 『じゃあわたしも、右京さんと一緒にお留守番を……』


なんて葵さんが言い出したんだけど、すぐに椿さんが反対した。

椿「えぇーっ!葵が来ないとおもしろくねーじゃん!もう決定だからな!!」
 『わたしに拒否権は……』
椿「ない!」


と半ば強引だったとも言える方法で、葵さんも来ることになったのだ。
椿さんは棗さんも誘っていたみたいで、9人という大人数でのスキーとなった。


――――――――――――――――――――



 『絵麻ちゃん、疲れてない?大丈夫?』
絵「全然平気です!ただ……すごく寒いですね」



午前2時過ぎに、わたしたちは途中にある上里サービスエリアに到着した。ここで棗さんと合流することになっているから、少し休憩していた。
大きなマフラーをもう一度しっかりと首に巻きつける。…このマフラーはこの前棗さんと会ったときにもらったもの。しっかりと包み込んでくれるこれが、とても気に入っていた。
葵さんも耳あて、マフラー、手袋までして防寒対策はばっちりなように見えたけど、それでもまだ体を震わせていた。


 『まあこんな時間だし、寒いのは当たり前なんだけどね。…………星、綺麗だね』



そう言って葵さんは空を見上げる。ただ上を見て星を眺めているだけなんだけど………、そのしぐさもわたしにはない大人っぽさが見えたような気がしてドキッとなる。




わたしも同じように空を見上げると、この半年のことを次々と思い出す。


夏の別荘では、要さんにキスをされた。
誕生日会のあとには、昴さんとすこし事故がおきた。

結婚式で、棗さんという新しいキョーダイのことも知った。


いろいろな思い出がごちゃごちゃになって噴出して、めまいのような感覚を覚えたとき。

軽いクラクションの音が、わたしを現実に引き戻した。


運転席から半身を乗り出して、棗さんがこちらに手を振っている。
わたしが手を挙げると、棗さんは軽く微笑んで車をゆっくりと寄せてきた。

棗「ようやく追いついた。………しかし、寒いな」
絵「ほんと、そうですよね」
棗「なあ、ちょっと悪いんだがお茶を買ってきてくれないか。あったかいヤツ」


棗さんが車のサイドボードへ手を伸ばす。わたしはそれを制して言った。

絵「あ、大丈夫ですよ。わたし出せますから」


トートバックを開けて財布を探す。そうしたら、棗さんが笑った。

棗「いや、妹におごってもらうのは……」





 『あぶない、絵麻ちゃん!!』




急に発せられた葵さんの声。それまで笑顔で笑っていた棗さんの表情も、こわばった。
直後、わたしは背中から強い衝撃を感じた。前につんのめって、急に雪に濡れたアスファルトが視界いっぱいに広がる。

ぶつかる……!


そう思った瞬間、強い力がわたしをつなぎとめた。
それは棗さんだった。車から飛び出してきて、転倒する前にわたしを支えてくれたのだ。


棗「白百合、絵麻を頼む!!」
 『そんなこと、言われなくても分かってます!』


棗さんがものすごいスピードで走り始めた。その先には、男の人の姿。その人は、わたしのトートバックを手にしていた。


 『絵麻ちゃん、怪我はない?痛いところは?』
絵「それは大丈夫ですけど……」

わたし、ひったくりにあったんだ……
そう完全に理解しきったときには、棗さんが男に追いつき、トートバックが手元に戻ってきた後のことだった。
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