決められた運命

□第5衝突
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昴さんと葵さんの誕生会には仕事で来られなかった琉生さんと風斗くん以外の全員が集まっていた。
朝はともかく、夕食の時間にこれだけの人数が集まるとさすがににぎやかだ。



葵さんはあのあと琉生さんに仕事場まで連れて行かれて、まだ帰ってきていない。だからみんなには葵さんのお祝いをする事を伝えて、本人には内緒のサプライズとなっている。



雅「琉生には彼女も主役だって伝えてあるの?」
絵「はい、葵さんがいない時にあらかじめ伝えておきました」
要「じゃあきっと、葵ちゃんはすごく可愛らしくなってくるだろうね」




すると、エレベーターがこの五階に着く音が聞こえる。みんなで一斉にクラッカーを葵さんが入ってくる入り口と、昴さんへと向けた。






『た、ただいま帰りました………』




パーン!とカラフルな紙吹雪が舞う。




「「昴、白百合(葵)さん、お誕生日、おめでとう!!」」



『え………?』



突然の言葉に呆然と立ち尽くしている。クラッカーはわたしが勝手に用意したんだけど、昴さんよりも葵さんにたくさん向けられていたらしく、たくさん紙吹雪を浴びていた。




梓「白百合さん、おめでとう」
椿「葵おっめでとー★」
祈「おめでとう、白百合さん」
『えっと………今日は昴さんの誕生会ですよね?』
絵「わたしがみなさんにお願いして、葵さんのお祝いもすることにしたんです!」




まだ状況を掴みきれていないのか、まだボーっとした様子の葵さんはゆっくり中に入ってくる。彼女の全身が見えたとき、みんながおぉ、と声をあげたのがわかった。


葵さんは先程の服装と違い、黒がメインのワンピースを着て、薄いピンク色のカーディガンを羽織っていた。そのワンピースは膝よりも丈が短くて、葵さんの白い脚がよく見えた。



髪型もいつも無造作におろされていたそれが、きれいに纏められ右上で縛られてアップになっている。星形のネックレスが胸元でキラキラと輝き、頭にはコスモスを模したデザインのバレッタが付けられて少し可愛らしく見えた。
葵さんが座ったところで、雅臣さんが口を開く。





雅「それじゃあ主役がそろったところで、始めようか。ケーキを持ってきてくれるかな?」
絵「はいっ!」






みんなのいる方へケーキを持ってくると、弥ちゃんが目をキラキラさせた。

弥「すごい!すごい、すごいよー!」
雅「弥、少し静かにしようね。これは昴お兄ちゃんと葵さんのためにお姉ちゃんが作ってくれたものだから、二人よりも喜んじゃいけないんだよ。いい?」


弥ちゃんは少し浮かれすぎたようで、雅臣さんにたしなめられてしまった。
なんだかヘンな理屈だけど、弥ちゃんはそれで納得したようだった。昴さんと葵さんに頭を下げて、しょぼんとしながら自分の席に戻った。



侑「…………これ……………オメーが、作ったんだよな?白百合さんと、すば兄のために…………」
絵「そ、そうだよ?」





小皿を用意していたら侑介くんの呟き声が聞こえた。侑介くんは視線をテーブルに落とす。




侑「俺………食えねえ……」
絵「えっ!なんで!?ケーキ嫌いなの?」
侑「いや、そうじゃねえけど!オメーが作ってくれたんだし、食わねえのはわりぃと思うし食いてえけど!でも、なんか………食えねえ」
絵「な、何言ってるの侑介くん?」
椿「あ、そー。侑介食わないんだあ。じゃあ、その分は俺がもらっちゃうねー。だって、絵麻の愛情がいっぱい詰まったケーキだもんね。俺、いくらでも食えちゃいそ♥」







侑介くんの態度に困惑していたら、椿さんがにこやかに割って入ってきた。


侑「ちょ、ちょっとつば兄!」
椿「あ、そうだ。俺さ、絵麻に食べさせてもらったら超うれしいかも。ね、してして?それとも〜、食べさせてあげた方がいい?それでもいいよー。はいあーんして、なんて☆」
梓「はいはい、そのへんにしとこうね椿」



梓さんが椿さんの肩を掴んでわたしから引き離した。


椿「梓にも俺が食べさせてあげるよー。ほら、こっち来て〜」
梓「椿………?」





梓さんの声が少し冷たくなった。異変を感じたのか、椿さんがすっと手を引っ込める。




椿「ところでさー、肝心の当人たちは喜ぶどころじゃないみたいだけど?」



そう言って長いテーブルの端に設けられている特別席に座った昴さんと葵さんを指す。
昴さんは顔がものすごく赤い。誕生会が始まったときから少し赤っぽかったけど、今は夕陽に照らされたみたいに朱に染まっている。
葵さんはというと、ぼんやりとケーキを見つめているように見えた。




右「………白百合さん、大丈夫ですか?」
『…………え、ああ……大丈夫です』
要「それで大丈夫って言われても、無理してるようにしか見えないよ葵ちゃん。何かあったの?」








『いえ………誕生会って、こんなに暖かいものだったんだなって思って……。ケーキもあって、こんなにたくさんの人に"おめでとう"って言ってもらえて……、嬉しかったから…』





葵さんは立ち上がってみんなを見渡す。少し潤んだ瞳で彼女はにっこりとわらった。


『居候のわたしにもこんな機会を設けてもらえて……嬉しかったです。ありがとうございました……!』
「「………………!!」」
椿「そんなの全然気にしてなかったのにー!葵も一緒に住んでるんだし、家族みたいなもんだろー?」
要「そうだよ葵ちゃん、気をつかう必要なんてないから、困ったらいつでもおにーさんのところへおいで?………で、あーちゃんと京兄はいつまでフリーズしてるわけ?」



葵さんの笑顔に要さんと椿さんは優しく笑いかける。
要さんに声をかけられた梓さんと右京さんは、ハッとしたように動き始めた。


要「葵ちゃんが問題ないなら、すばちゃんも問題ないだろうね。あれは病気ではないよ」


要さんは今度はわたしの近くにきた。すっと腕がわたしの肩に伸びてくる。


要「いや、病気かな。医者でも治せないっていう病気かも。まあ俺も同じなんだけどね。医者にも治せないんだから、まして坊主じゃ無理だよね。それにいいんだ、俺はずっとこの病気にかかっていたいから……」



その時、横合いから伸びてきた手が要さんの手をやんわりと掴んだ。



要「祈織……」
祈「彼女が困っていますよ、要兄さん。ごめんね、大丈夫?」
絵「あ、はい……」


祈織さんがわたしを見てにっこり笑って言った。


祈「ところで、聞いてもいい?」
絵「なんですか?」
祈「今日、どうして髪形変えたの?白百合さんは主役だしまだわかるけど…」


わたしはアレンジされた髪を手にとって説明した。



絵「琉生さんがやってくれたんです。すごいですよね、琉生さんって、こんなにイメージが変わるなんて思ってませんでした」
祈「…………ああ、琉生兄さんは美容師として一流だから。指名してくるお客さんも多いらしいよ」
絵「わかります、それ」
祈「……ふふ」



不意に祈織さんが嬉しそうに笑った。


祈「ああ、ごめん。気にしないで、アレンジを変えたのが君の意思じゃないって分かって良かったなと思っただけ」
絵「え…………?」


わたしがきょとんとしていたら、右京さんの声が響いた。
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