決められた運命

□第6衝突
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『あ、梓さん。今帰りですか?』
梓「うん、少し収録が長引いてしまってね。ところで、その手に持っている袋は……?」


レンタルショップからの帰り道で梓さんと出会った。わたしの持っていた袋について尋ねた梓さんに、少し苦笑いで説明する。




『麟太郎さんと美和さんの結婚式で梓さんと一緒にうたを歌うからCDを借りてきてほしい、と椿さんから頼まれて………』
梓「それで本当に借りてきてくれたの?ありがとう、白百合さん。それは僕から椿に渡しておくよ」
『じゃあ、よろしくお願いします』


まかせて、と微笑んだ梓さんの笑顔が少し怖かったのは、きっと私の見間違えなんかじゃなかっただろう。




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『それじゃあまず、教科書に載ってる例題から見てみようか。絵麻ちゃん、侑介くん、開いてみて?』
絵「はい!」
侑「こ、このページで間違ってねーっすよね……?」




金曜日の夜、リビングには教科書をもった絵麻ちゃんと侑介くん、そして私がいた。他にも右京さんや要さん、祈織さん、弥くんもいたけど、ただ見守っているだけだ。

元を辿ると、先日要さんが絵麻ちゃんと侑介くんの三者面談へ行ったというところから始まった。
絵麻ちゃんが明慈大学を目指しているという詳しい進路は初めて知ったものの、侑介くんも同じところを目指しているというのだ。侑介くんの成績は絵麻ちゃんより少し……、と聞いていたから同じ場所を目指していたなんて意外だった。



そこで問題となったのが二人の成績がいまいちだったという事。侑介くんは別として、去年の成績なら安全圏であったはずの絵麻ちゃんまでもが、成績が下がっていたというのだ。




そんな訳で英語なら教えれる………(かも)!と私が先生役を引き受けたのだ。
絵麻ちゃんは明日右京さんから古文を教えてもらうらしいから、そこは問題ないだろう。





『絵麻ちゃんは大体内容も理解できてるみたいだし、あとは苦手な文法を覚えられれば大丈夫だろうね。問題は………侑介くんかな』
侑「お、俺だって!これくらい自分で…………!」
『本当にできるの?そう言うわりには絵麻ちゃんと違って全くペンが動いてないみたいだけど?自分で出来るって言うならさっさと問題解いて』





そこまで言うと侑介くんが黙った。侑介くんは多分1つ1つ丁寧に教えて覚えていけば絵麻ちゃん位には点数取れるんじゃないかと思うんだけど…………。
絵麻ちゃんと侑介くんとは違う視線を感じて後ろを向くと、呆然とした要さんと右京さんがいた。祈織さんはクスクスと笑っている。






『あの、もしかして酷く言い過ぎましたかね………?いつももっと優しく教えていたりしましたか?』
右「いえ、白百合さんは優しい方だと心得ていたものですからてっきり指導も優しいのかと………」
要「まさかゆーちゃんをバッサリ切り捨てるなんてね!葵ちゃんサイコーだよ!」
『そんなに酷く言ってましたか!?侑介くんごめんね!』




侑介くんに謝ると、彼はすぐに許してくれた。
朝日奈家のみんなはやっぱり優しいな……としみじみ感じていると、絵麻ちゃんがおそるおそる声をかけてくる。




絵「あの、単語が分からなくて……」
侑「あー、そこ俺も悩んでたとこだ。ここに"to"が入ってるってことはこのあとの単語はこの選択肢にはないだろ?」


選択肢を見せてもらうと、うーん、と唸った。
多分これであってると思うんだけど……ちょっと説明に自信がないかな。



祈「これはそのままの意味で捉えていいんだよ、だから動詞を選んで不定詞の形にすればいいんじゃないかな」
絵「という事は………この答えはこれですね!」
侑「そーいう事か!俺もわかったぜ」


いつの間にか隣に来ていた祈織さんが二人に説明すると、再び問題を解き始めた。




『あ、ありがとう祈織くん。さすがブライトセントレア学院生だね、賢いから教えるの上手だったよ』
祈「そんな事はないですよ。貴女だって、答えは分かっていたんでしょう?」
『でも、私あんなに説明出来なかっただろうし……』
祈「でも、侑介相手にあそこまで悩む兄弟は今までいなかったから。先生役になってくれてありがとう、白百合さん」





いきなりの感謝の言葉に戸惑っていると、祈織くんはまた話を進める。



祈「僕ね、城智大学を受けようと思うんだ。そう、白百合さんと同じ大学だね」
『祈織くんが、城智!?』




少し驚いて声を出してしまった。
驚いた?なんて笑って聞いてくるけど、そんな楽に驚いたよー………なんて、



『(言えない、少なくとも祈織くん相手にそんな軽くは……!)』
祈「あと、絵麻ちゃんに渡したいものがあるんだ。……これ、受け取ってくれない?」
絵「わ、私ですか……?」





絵麻ちゃんに渡されたもの……それは細長い紙片。何かのチケットのようだった。




祈「僕が通っている、ブライトセントレアの文化祭の招待状。本当は白百合さんにも渡したかったんだけど、一枚しかなくて」
絵「………祈織さん」
祈「いつもいろいろお世話になってるし、そのお礼……には足りない気がするけど、せめてもの気持ちだから」
絵「……ありがとうございます、行かせてもらいます」



一般公開は11月3日だからね、と絵麻ちゃんに伝えてから祈織くんは自分の部屋へと戻っていった。


最初は絵麻ちゃんの事心配してたけど、そんなに心配することもなかったかな……と二人のやりとりや朝日奈家の日常を見て思えてきていた。
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