夢小説 魔術師の戦律

□prelude(前奏曲) プロローグ
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 1944年9月、第501統合戦闘航空団の活躍によりガリアは解放され、異形の軍ネウロイは世界中で活動を弱めつつあった。
 しかし、1945年3月、ネウロイは反撃を開始する。
 ヴェネツィア上空に突如出現したネウロイの巣は、眼下でトラヤヌス作戦を行っていた第504統合戦闘航空団のウィッチたちを強襲。
 戦いの末、ヴェネツィアは陥落し、その脅威はローマに迫る。
 これにより、ローマ防衛にあたっていた第504統合戦闘航空団は壊滅状態に陥ったのであった。

 この報を聞いた、各国は危機を募らせていた。
 ロンドンに置かれた、ここ連合軍司令部も例外ではない。
 そんな中、ミーナ・ディートリング・ヴィルケ中佐は司令官ガランド少将の執務室へと、呼び出されていた。

「ヴィルケ中佐、入ります」

 出頭してきた、彼女の姿を見てガランド将軍は渋面を作った。

「やってくれたわね」

「あら?何の話でしょう?」

「各国軍司令部に脅しをかけて、ヴェネツィアへの補給の約束を取り付けたでしょう。それも私の名前を使って」
 
「将軍の命令だなんて、私は一言も」

 おやおや、という顔でミーナは肩をすくめた。
 その様子を見た、ガランドはため息をついた。
 各司令部から回ってきた情報でミーナがやったことに見当はついている。

「補給はともかく、ウィッチはどうするの?」

 自国でも起こるかもしれない、ネウロイの強襲。
 この状況下で各国が優秀なウィッチを派遣してはこないだろう。
 かつての501のような先鋭部隊を作るのは至難のはず……。
 その疑問にミーナは微笑んで答えた。

「将軍、人は集めるものではなく、自然と集まるものですわ」

 ガランドはそれを聞いて驚いた。
 ミーナにはすでに確信があるのだと。

「あのマロニーが、貴官のことを牝狐とののしっていたことを思い出すわね」

「まあ」

 ミーナは心外だと言わんばかりの表情を作る。
 その様子を見たガランドは苦笑しながら、手元のクリップボードに目を落とした。

「将軍、それは?」

 ミーナは目聡く視線を追ってきて、それを見つける。

「優秀な部下に餞別をと思ってね」

 ガランドはミーナにクリップボードを渡した。
 ミーナはパラパラ、と資料をめくっていく。
 そこに書かれているのは、一つの部隊と二人の隊員。

 部隊の名はカールスラント軍第200独立戦闘飛行隊、通称〈シュバルツアドラー〉。
 カールスラント空軍及び連合軍を支援するために作られた特殊部隊である。
 彼らは転戦を繰り返し、戦況をよくしている。
 だが、その特有性がある故にこの部隊の隊長の私兵部隊となってしまい、東は扶桑、西はリベリオン、南はノエル・カールスラントと気ままに飛び回っているそうだ。

 そして、その原因となっているのがこの男性。
 名前はエイト・グナイナー、階級は少佐。
 部隊の隊長で世界でも稀有な男性ウィッチ、つまりウィザードである。
 写真に写る風貌は、黒髪に黒のロングコートと全身黒づくめであるものの、眼鏡をかけたその顔立ちはピアニストか神父が似合いそうな優しいお兄さんといったところか。
 だが実際には、〈蒼の戦神〉と謳われたほどの実力を持ち、カールスラントでも屈指の研究者である。

 この部隊を支えるもう一人の女性隊員。
 名前はユリアヌース・ティアム、階級は大尉。
 困った隊長の補助をする副隊長。
 写真に写る風貌は、同じ黒いロングコート着ているが色素の薄い髪と対になり映えて見える。
 きれいな顔立ちからは気品がうかがえる。
 その副隊長も戦場では〈紅蓮の戦姫〉と呼ばれ、狂戦士のごとく活躍しているウィッチである。

 戦闘員はたった二人の独立部隊。
 それが、各地で戦況を覆すような活躍をしているのだから驚く他ない。
 もう少し真面目に働いてくれたらと思うのはわがままなのだろうか。
 そんな憂鬱を胸にミーナは資料から目を外した。

「どうだろうか? 気に入ってもらえたかな?」

「ええ、まあ」

 ミーナは眉を寄せた。
 この部隊が501に組み込まれるのは戦力として申し分ない。
 ただ、問題は彼が応じてくれるかどうかだ。
 皇帝フリフィード4世に許可を貰い、独自行動をとっている彼らは、カールスラント空軍ウィッチ隊総監のガランド少将の指揮下にない。
 彼らを指揮下に収めているとしたら、陛下か総統閣下、空軍の総司令官ぐらいだろう。
 
「大丈夫よ」

 ガランドは不敵な笑みを浮かべる。

「貴官も彼の性格を知っているでしょう」

 少将も人が悪い。
 彼の性格は一度会った者ならわかるが、享楽家で周りに優しい。
 特に女性には甘いといわれるほどだ。 

「すでに文書を送ったのだけど……」

 ガランドは罰の悪そうな顔をする。

「どうかされたのですか」

「それが、彼がアフリカに飛ぶのと入れ違いになったにみたいなのよ」

「はぁ」

「だから、合流が遅くなるかもしれないの。そこは我慢してちょうだいね」

「了解しました」

 もともと、来るか来ないかわからない援軍だ。
 ミーナは期待しないで待つことにした。

「それと」

 ガランドから差し出される一枚の招待状。

「私にですか?」

「そうよ。一時間後にまた会いましょう」

 ミーナにはそれを受け取る以外の選択肢はなかった。

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