夢小説 魔術師の戦律

□ouverture(序曲) 黒衣の兄妹(下)
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 戦闘後、すぐに宮藤たちが駆け寄ってきた。

「は、速すぎです! グライナー少佐」

「まって〜。よしかちゃ〜ん、しょうさ〜」

 情けない声を上げるふたり。

「ふん。お前たちが遅すぎるんだ」

 宮藤たちに容赦ない言葉を浴びせる。
 しかしながら、彼女たちが遅れるのは当たり前である。
 こちらは世界トップレベルの技術を注ぎ込んだ試作機なのだから。

「大体、援護はどうした!」

「あうぅぅ」

「す、すみません。すみません」
 
 とどめの一撃に轟沈する宮藤。
 ビショップ曹長なんか、ぺこぺことひたすら平謝りをしている。

「こちら、グナイナー。敵は殲滅した。
 これより輸送機の護衛にあたり、そのまま基地に向かう」

『こちら、司令部。了解しました。
 あの子たちは頼むわよ』

 無線での報告を終え、俺はうなだれているふたりを見て思う。
 やりすぎたな。
 その自覚はあるが、‘こっち’になっているとこのような言動をつい口走ってしまう。

 反省するならしないといいという輩もいるが、そうできないものまた事実。
 起こってしまった事柄はどうしようもない。
 ここからのフォローが大切なのである。
 
 深呼吸をして自分の気持ちを抑えた。
 気持ちを整えると、できるだけ優しい声でふたりの名を呼ぶ。
 
「宮藤さん、ビショップさん」

「「は、はい!」」

 どこかおびえたように返事をするふたり。
 重症だな。

「さっき言ったことだが、その……ちょっとした冗談だと思ってほしい」

「「…………」」

 急に、態度を変えた僕についていけれないふたり。
 とても気まずい空気が流れる。
 誰か手を貸してほしい。

 祈りが天に届いたか、複数のプロペラ音が響いてきた。
 宮藤たちも救われた顔をしている。
 あとで誤解が解ければいいが。

「お〜い。えいと〜、みやふじ〜、リ〜ネ〜」

 手を振り近づいてくるシャーリー。
 他にも4つの機影が見える。
 みんな無事か。
 思わず安堵の息が漏れる。

「え〜いと〜」

 ひとつの機影が速度を上げ突っ込んでくる。

「ちょっと、待って……」

 急いで受け止める態勢を作るが……。

「ぐっ」

 腹部を突き抜ける鋭い衝撃。
 飛びついてきたのはフランチェスカ・ルッキーニ少尉。
 生粋のロマーニャっ娘で、子猫のような自由奔放な性格だ。

「こら! いきなり抱きついてくるにしろ、手加減してくれ」

「え〜、いいじゃんべつに〜」

 全然よくない。
 猛烈なタックルを受ける身にもなってくれ。

「にぃ〜さ〜ん」

 ふらふらとユリアが飛んでくる。
 見るからに危なっかしい。

「おっと」

 傍に来るなり、身を預けてくる彼女。

「大丈夫か」 

「ちょっと、疲れちゃった」

 ユリアは薄笑いを浮かべながら答える。
 
「すまない無理をさせたようで」

「うんん。ぜんぜん、だいじょ……う……ぶ…………」

 僕は慌てて、ユリアに腕をまわした。
 どこが大丈夫だ。
 かわいい寝息を立てる彼女を微笑ましく思った。

「すきあ〜り」

「ふ、フラウ」

「えへへ」

 背後から不意に抱き着かれる。
 後ろを見てやるとフラウは笑顔でこちらを見上げていた。
 愛嬌をふりまくのはエーリカ・ハルトマン中尉。
 空ではスーパーエース、陸では自由気ままに生きている。

 ともあれ、僕は2人のウィッチに抱き着かれ、片手でひとり抱いている状況だ。
 状況だけ見ると、羨ましがられるかもしれないが実際は大変である。
 3人ともストライカーを履いているのだけれど、動いている気配がない。
 つまりだ、墜落しないためには僕はひとりで4人と各自の装備ぶんの推力を得なければならないのだ。
 
「ふふん。エイトは人気者だな」

 状況が分かった上でからかってくるウィッチ。
 彼女の名前はシャーロット・E・イエーガー。
 階級は大尉だ。
 シャーリーの愛称で親しまれる彼女の興味は速さの探求にそそがれている。
 アフリカではこのストライカーも解体されかけた。

「…………」

 その隣では不機嫌を顕わにするおさげ髪の少女。
 模範的なカールスラント人で知られるゲルトルート・バルクホルン大尉。
 規律、規律と堅苦しく沸点の低い彼女。
 いまも僕の状況を見て、はらわたが煮えくり返っているはずだ。
 だが、決して怒鳴ろうとはしない。
 僕の右腕で寝息を立てるユリアに気が付いているからだ。
 そんな不器用な優しさが彼女の愛嬌である。

 それにしてもだ。
 いつまでもこの状況は好ましくない。
 このままだと、この子たちを連れて基地まで飛行しないといけなくなりそうだ
 目の前で噴火しそうな火山にも、鎮まってもらわなければならない。

「フラウ、ルッキーニ。そろそろ、離れてくれないか」

「「え〜」」

 不満そうな声を上げたふたり。
 きっと話せばわかるはずだ。

「お荷物さんを運ばないといけないからさ」

「むぅ〜。しょうがないな」

「アハトはユリアが大事だもんね」

 彼女たちはしぶしぶ了承し、解放してくれた。
 これで楽に飛べる。
 僕は胸をなでおろすと、両手で抱えるためにそっとユリアに左手をまわす。
 早く連れて帰ろうと、機首を上げたその時。
 
「と、でも言うと思った?」

「うじゅ〜。ユリアだけずる〜い〜」

 再び、背後からの奇襲。
 この度の締め付けはかなり強い。
 絶対に離さないと言わんばかりだ。

「ほんと、勘弁してくれよ〜」

 僕の虚しい思いは空のかなたに消えていった。
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