夢小説 魔術師の戦律

□ouverture(序曲) 女医 アレッシア・コルチ
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「ん〜、おいし」

 私は配膳された料理を口にして、感嘆の声を上げる。
 目の前に並ぶのは扶桑とブリタニアの料理。
 いま口にしているのはカラアゲとか言う名前の料理だったかな。
 粉をまぶし揚げた鶏肉から溢れ出す肉汁、衣のサクサク感、絶妙なハーモニーを奏で出す味付けがたまらない。
 さらに、鶏肉独特のにおいも感じられないのだ。

「リーネちゃん、お塩をとって」

「はい!」

 片や世界でも不味いと有名なブリタニア料理。
 兄曰く、ブリタニアの料理は手抜きが多いんだ!、と熱烈に語っていた。
 原因は文化の違いにあるらしい。
 その為、他国の人が食べるとまずいと感じてしまうことが多いそうだ。
 対策としてはブリタニア人がしてことを見習い、後から自分好みに味付けをすればいいそうだ。
 実際、私も兄もそうしている。
 この食べ方は兄の流儀に反するそうだが……。

 その兄を見ると、かなり食べづらそうに料理を口にしていた。
 理由は二つ。

 一つ目は周りの目だ。
 ほとんどが兄に注がれている。
 例外としては料理にかぶりついているルッキーニとフラウ。
 ちらちらと時々見ている、トゥルーデと私だ。
 兄が答えを先延ばしにしたのが悪いんだけどね。

 二つ目は私が焼いた左手の所為だ。
 みんなに悟られないように頑張っているようで、左手に持つフォークを危なっかしい動きで動かしている。
 やり過ぎたかな……でも、悪いのは兄さんだし…………。
 反省しようか悩む私。
 自業自得と言えばそれで終わりなのだが、気づいている私からすればその強がるさまが見ていられなくなる。

「兄さん」

「どうした?」

 両手に持っていたナイフとフォークをゆっくりと置く兄。
 左手が痛むようで、フォークを置いた際小さな音が鳴る。
 睨まないで上げてね、ペリーヌさん。

「こっちを向いて……はい、あ〜ん」

 一口大に切り分けたカラアゲを兄の口元に持っていく。

「え? は? やっ、ユリア、そのだな……」

 奇妙な声を上げる兄。
 耳まで赤くして、なんだか可愛い。
 
「食べないの……?」

 そんな兄に追い打ちをかけるべく、私は上目づかいで見上げる。

「うっ…………分かったよ」

 観念したようで兄はおとなしくカラアゲを口にした。

「どう? おいしい?」

「……ユリアが作ったわけじゃないだろう」

 感想を聞く私に兄は身もふたもないことを言う。
 ほんと、この人は感性が鈍いわね。
 ほほを膨らまして怒りたくなる。
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