夢小説 魔術師の戦律
□ouverture(序曲) Night tag(上1)
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冷たく吹き付ける風。
天高く昇る蒼月。
大地を包む夜天の恵みが、生けるもの全てに安らぎをもたらす。
「「…………」」
闇に眠る常世を見渡せば、一対の妖精が星空に舞い踊る。
端麗な妖精エイラと清廉な妖精サーニャ。
淡い光に照らされた彼女たちの姿は神秘的だ。
透き通るような雪色の肌、夜風になびく絹糸のような美しい髪は、身体に纏う夜露が輝きを見せるとき幻想の世界を創り出す。
そして、夢の世界で踊る妖精は、今宵も人々の安全を見守り続けるのであった。
「……さっきから一人で何言ってんダヨ」
「変なエイトさん」
ぐふっ。
二人の痛烈な言葉が胸に突き刺さる。
夜間哨戒を行う彼女たちの姿を見て、咄嗟に思い付いたことを口にしたのだが……。
言葉の選択を間違えたのであろうか。
精進しないといけないね、精進。
「そうじゃないダロ……」
何故か、エイラは諦め顔である。
「ふふふ」
サーニャちゃんは僕を見て微笑んでいるし……。
なんか僕が痛いやつみたいだ。
まあ、それはさておき、いま僕はエイラ、サーニャちゃんの三人で夜間哨戒を行っている。
いつもより早めの速度で、だそうだ。
原因はここに来るまで地上で一悶着あったからだ。
内容は割愛とさせてもらう。
結果だけ言うと、様子を見に来たミーナの一言で決着がつき、僕はここにいる。
『グライナー少佐からは後でお話を伺うとして、早く哨戒任務に就きなさい』
だもんな。
さすがは世界を震撼させるブラックスマイル。
誰も抗えない。
待てよ、いま考えればそのまま唯々諾々と従ってよかったのか。
後でお話を伺うって……。
危険な香りがしてくる。
生命のピンチかもしれない。