Bed Room U

□第二十八章
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GGO【ガンゲイル・オンライン】というゲームには昔ながらのRPGで言う所の《戦士》《魔法使い》的な職業……謂わばクラスという概念は存在しない。

各プレイヤーは、筋力(STR)、敏捷(AGI)、耐久(VIT)、器用(DEX)といった六種類の能力値(ステータス)、及び火器習熟(マスタリー)や弾道予測拡張(サジェスチョン)、応急手当(ファーストエイド)、軽業(アクロバット)などなど、数百種類程の技能(スキル)を自由選択によって上昇させ、自分だけの能力構成(ビルド)を作り上げる。

つまり何が言いたいのかと言うとだ。

このゲームのクラスはある意味ビルドの数だけ存在するのだ。

だがその一方であまりにも無計画にビルドを割り振ると大幅に戦闘力をダウンさせてしまう。

そうだな……例を上げるとするなら、筋力を低くしてしまって大型の銃火器が持てないのにも関わらず重機関銃のマスタリーを上げてしまった、とかだな。

基本的にこんな事をしてしまえば目も当てられないが、故にこのゲームでは自分にあった火器を見つけそれに見合ったステータスとスキルを上げていくのが必須なのだ。

まぁ、私はオールラウンダー(チートとも言う)だからどんな武器でも使うが、基本的にキリトと同じで私は速さを売りにしている部分もあるからあまり重い(大きい)武器は好まない。

こんな姿だ。スピードが落ちることはしたくない。

おっと、話が逸れたな。

まぁ、選択スキルの細部は違えど、その大まかなパターンが共通するプレイヤーを、便宜的に《アタッカー》《タンク》《メディック》《スカウト》などというクラス名で呼ぶことがある。

シノンのクラス《スナイパー》もレアではあるがその一つだ。

大型の装備であるライフルを持つ為にSTRを優先し、照準精度を上げる為のDEX、撃った後高速離脱をする為のAGIもそこそこ上げてある。

代わりに、見つかったら負けと割り切ってVITはバッサリ捨てる。

スキルも同様に狙撃関係や命中率に関するものも片っ端からとり、防御関係は全部捨てスナイパー一筋で割り振ってきたシノンだが、そこまでしても《心拍連動システム》のせいで動揺など鼓動が乱れれば外れていまうのが狙撃の難しさなのだが。

そんなピーキーすぎるスタイル故に、実のところ大人数参加型のバトルロイヤル戦には向いていない。

なぜなら遠くの誰かを狙っている間に他の敵に間近に潜られ殺られてしまいがちだからだ。

そして、サブマシンガンやアサルトライフルを装備したアタッカーに肉薄されればもう一溜りもない。

破れかぶれに一発撃ったとしても照準精度は落ちるし、大概は当たらず終わる。

次の弾を撃つ頃には蜂の巣になっているだろう。

以上のような理由からシノンがもし一人で単独行動していたら、命中率重視のミドルアタッカーである《夏侯惇》にノリンコCQの射程まで接近されていた時点で勝ち目は無かった。のだが、今回ばかりは話が違う。

何故なら私とキリトと手を組んでいたからだ。

速攻で奴を叩きのめした私達は紆余曲折を経て今現在死銃を捜索中なのである。

予想よりも早くフィールド中南部にある草原地帯を横断した私達の足元はいつしかコンクリートに覆われた地面へと変貌を遂げ、見上げれば天高く聳えるビル群がもう間近に見える。

この島の主戦場である都市廃墟に侵入を果たしたのだ。


「追い付かなかったね」


足を緩めたキリトと都市廃墟を見上げる私にシノンはそう囁いた。

恐らく川底に潜って都市を目指したであろう死銃に途中で追い付き、武装解除状態で水から出るところを攻撃できるのではないかと少しばかり期待していたのだろう。


「………まさか、どこかで追い抜いちゃったとか………」


そう続けた彼女に、私はビルを見るのを止めて答えた。


『いや、それはない。もしそうなら走りながらずっと水中をチェックしていたキリトが気付くはずだからな。』

「え、アナタそんなことしてたの?!」

「あ、あぁ……他の索敵関係はアンジュに任せてあるし。」

『得意分野だからな。
ーーーさて、キリトのチェックでも見つからなかったなら奴はこの街のどこかに潜伏しているはずだが。』

「確かに。川はあそこで行き止まりだものね。」


私とシノンが視線を向けた先では川が暗渠となって都市地下に流れ込んでいる。

その入口には頑丈な鉄格子が設置され、プレイヤーが通り抜けるのは不可能だろう。

あの手の障害物は例えプラズマグレネードを百発投げ込もうが破壊することは出来ない。

前に面白半分で試してみたしな。


「そうだな……。九時のスキャンまで、あと三分か。この廃墟の中にいる限り、衛星の眼を誤魔化す手段はないってことだよな?」

『あぁ。前回は例え高層ビルの地下に居てもマップに映ったからな。』

「隠れるには大きなリスクがある水中か洞窟、それ以外にスキャンを避けられる場所はないはずよ」

「OK。なら、そのスキャンで死銃の場所を特定したら、奴が誰かを撃つ前に強襲しよう。俺が突っ込むから、シノンとアンジュは援護を頼む。」

『………なんで私が援護なんだ。私だって突っ込み隊長位は出来るぞ?』

「却下だ。お前さっき死銃にスタン弾喰らってただろ」

『………………掠っただけだ問題ない』

「……………………………………………………掠った“だけ”?」


一気に低くなったキリトの声音に、ビクリと体が反応し頭が警鐘を鳴らす。

あ。ヤバイ、怒らせた。


『…………わ、分かった。今回はキリトの言う通りににする』


私がそう言うとキリトはニッコリと微笑んで私を抱き上げると耳元で。


「………後で覚えてろよ?」


と死刑宣告を下したのだった。







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