Bed Room
□閑話
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最後に、4つ目のグループは、簡単に言うと“その他”の者たちだ。
攻略を目指すにしても、巨大グループには属さなかったプレイヤーたちの作った小集団がおよそ50で、人数に換算すると約500人。
その集団は《ギルド》と呼ばれ、彼らは軍にはないフットワークのよさを活かし、堅実な攻略と戦力増強を行っていた。
更に、ごく少数の職人、商人クラスを選択した者たち。
せいぜい200〜300人規模ではあったが、彼らもまた独自のギルドを組織して、当面の生活に必要なコルを稼ぐためスキルの修行を開始した。
残りの100人足らずが、《ソロプレイヤー》と呼ばれた者たちだ。
私とキリトはそこに属している。
私たち、ソロプレイヤーはグループに属さず、単独での行動が自己の強化、ひいては生き残りに最も有効であると判断した利己主義者たちだ。
そのほとんどがβテスト経験者で、知識を生かしたスタートダッシュは短期間でレベルを上げ、単独でモンスターや強盗たちに対抗する力を得てしまった。
それ故に、他のプレイヤーと共闘するメリットは殆どなく、その上、SAOというゲームは、魔法による必中の遠隔攻撃が存在せず、単身で複数のモンスターを相手にし易いという特徴がある。
しっかりした技術さえあれば、ソロプレイの方が経験値の効率の良さではパーティープレイを上回る。
まぁ、もちろんリスクはあるのだが。
例えばの話しをしようか。
パーティープレイでならたとえ怪我をしても誰かに回復してもらえるだろう。
単独ならば《麻痺》を喰らっただけでも、死の危険に直結する。
事実、初期のソロプレイヤーの死亡率はあらゆるプレイヤーカテゴリの中でも最大のものだ。
しかし、危険を回避できるだけの充分な知識と経験さえあれば、リスクを上回るリターンが保証されている。
そして、私たちを含むβテスターは、既にその2つを手にしていた。
貴重な知識を独占し、猛烈なスピードでレベルを上げていくソロプレイヤーと、それ以外の者たちとの間には深刻な確執が生じていた。
ゲームがある程度落ち着いてからは、ソロプレイヤーは皆第1層を出て、より上層の街を根城にするようになっていった。
黒鉄宮の、元は《蘇生の間》であったところには、βテストの時には無かった金属製の巨大な碑が置かれ、その表面には1万人のプレイヤー全ての名前が刻印されていたのだ。
なんとも有難い配慮で、死亡した者の名の上には解りやすく横線が刻まれ、横に詳細な死亡原因及び死亡時刻が刻まれている。
最初にこの碑に横線を引かれたのは、システムから切り離されれば自動的に意識が回復する筈。という持論を展開した男だった。
彼はアインクラッドの高い柵を乗り越えて、そこから身を投げた。
彼の名の上に横線が刻まれたのはそれから二分後のことで、死亡原因は高所落下。
実際に、彼が現実世界に復帰出来たのか、或いは脳を焼かれて死んだのかは此方からでは知る由も無いことだ。
ただひとつ言えることは、そんなに簡単に切断・救助ができるのなら、既に全員が救出されてる筈だ。
それでも、彼が消えた後もこの単純な決着の誘惑に勝てなかったプレイヤーは続出した。
キリトを含め、ほとんどのプレイヤーはこの世界での死に実感を持つことがどうしてもできなかったようだ。
まぁ、それは今現在でも変わらないだろう。
なんたって、この世界の死はHPが0になった瞬間に体を構成するポリゴンが消滅するだけの、慣れ親しんだ所謂《ゲームオーバー》の形なのだから。
実際にSAOにおける死の意味を知るには、それを体験した者にしか解らない。
その希薄感が、プレイヤーの減少に拍車をかけたのは間違いないだろうな。
さて、軍やそれ以外の集団に属するプレイヤー(特に待機組に属した者たち)が遅まきながらゲームの攻略に乗り出せば、やはりというか、モンスターでの戦闘で命を落とす者が出てくる。
この世界での戦闘は、多少の勘と慣れが必要になり、武術の心得がないものが、手練れに立ち向かってぼろ負けするように、このゲームでそれは命取りになる。
コツは自分で無理に動こうとせず、システムのサポートに乗っかることだ。
まぁ、例えて言うなら
単純に片手剣の上段斬りでも、《片手直剣スキル》を習得している者が、ソードスキルリストの上段切りをイメージながら初期のモーションを起こして敵を倒すのと。
スキルの無い者が無理矢理動きを真似るのとでは話しにならないほど、動きやスピードに差が出てしまう。ということだ。
これは、他の格闘ゲームでいうコマンド入力にも似ているな。
だが、それに馴染めない者は握った剣を振り回すだけで、初期状態のスキル技で勝てる筈のイノシシやオオカミに遅れをとる形となった。
それでも、HPが残っている状態で離脱することを選べば、死という結果を招くこともなかったのだが。
碑に刻まれる、自殺やモンスター戦における敗北。と言う文字と、無慈悲なラインを刻まれてしまった名前たち。
その数がゲーム開始後、約1ヶ月で2000人に登った時、残ったプレイヤーを絶望感が襲った。
このペースで死亡者が増え続けるなら、半年も立たないうちに全滅してしまう。
誰もがそう思っていたことだろう。
ーーー私以外は、な。
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