東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜

□目覚める力
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目覚める力

 欠けた月を巡り、3対3で対峙する白玉楼組(+一夏)と永遠亭組。
ある者は全身に魔力を循環させ、またある者は武器を構え、またある者は妖力を高める。

「ウドンゲ、てゐ。アナタ達はあの亡霊達を相手になさい。男は私が相手をするわ。」

 永琳が一夏を睨みながら鈴仙とてゐに指示を出し、2人はそれに無言で頷く。

「どうやらお互い戦(や)り合う相手は決まったようだな」

 そんな彼女達の様子に一夏は手の骨をポキポキと鳴らしながら喋りかける。

「ええ、アナタの結界を破壊できるあの能力(ちから)は危険すぎる。これ以上永遠亭の奥に進ませるわけには行かないわ」

「へぇ、さっき言ってた姫がいるからかしら?そこまで守ろうとするなら逆に気になってくるじゃない」

 永琳の言葉に幽々子が反応し、怪しく笑みを浮かべる。
その姿はいかにも『その姫を見つけて連れ出してやる』と言わんばかりだ。
その上先程ののんびりとした様子と違い、その体からかなりの量の妖力が滲み出ている(しかもこれでもまだ加減している方だから恐ろしい)。

「私を見つける気?その必要は無いわ」

「!?」

 突如として廊下の奥から声が響き、一夏達だけでなく永淋達もその声に大きく反応する。

「姫!?」

 現れたのは黒の長髪に桃色の着物に似た洋服を身に纏う大和撫子という言葉の似合う女性……永遠亭の主、蓬莱山輝夜だ。

「姫!今出て来ては……」

「言いたい事は分かってるわ、永淋。でも、さっさと片付けて結界を張り直した方が良いでしょ。だけど色々と厄介そうじゃない、この3人。特にあの男の子とか」

 黒髪の女は一夏の方を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。
その体からは既に闘気が溢れている。

「私が彼をと戦うわ。その間に亡霊2人を貴方達が片付けて。3対2ならそんなに時間は掛けずに済むでしょう?」

 永淋に目配せしながら輝夜は霊力を高める。

「……仕方ないですね」

 少しの間沈黙していた永琳だが、やがて諦めた様に溜息を吐き、再び臨戦態勢を取る。

「戦う気満々か。その上ご指名までしてくれるとはな……良いぜ、その見え見えの挑発乗ってやるよ」

 戦力の差にも物怖じせず、一夏は闘志を燃やす。

「大した自信ね。でも、私達が相手じゃ一人分の戦力差は大きいわよ」

「あらあら、言ってくれるじゃない。たかが一人多いだけで」

 輝夜の挑戦的な態度に対し、幽々子は口元を扇子で隠しながら笑みを浮かべる。

「……とはいえ、どうします?実際相手が有利って事に変わりは無いですけど、作戦とかあるんですか?」

「……ゴメン、何にも考えてないわ」

「っていうか俺達って基本ゴリ押しだし、作戦なんて立てるだけ無駄だろ。足りない分は実力と根性で補うだけだ」

「……ですよね。ま、私も小細工とか苦手だし、丁度良いけど」

 一夏と幽々子の無計画さに呆れながらも妖夢は刀を構える。

「一夏さんはもう決まってますけど、幽々子様は誰と戦います?」

「当然あの銀髪の子よ。妖夢は下っ端の兎達をお願いね」

「はぁ……結局二人まとめて相手にするのは私ですか」

 面倒事を押し付けられ、妖夢は溜息を吐く。
今日だけで吐いた溜息の回数はもう数えるのも馬鹿らしい。

「悪いな妖夢。後でマッサージしてやるから勘弁してくれ」

「!!……ハイ!任せてください!!2匹ぐらいあっという間に倒して見せます!!(一夏さんが直々に私にマッサージ……)」

 鼻血を噴出しそうになる衝動を抑えながら妖夢は妖力を一気に高めた。
その量は平常時より格段に高い。

「なんか勝つ気満々じゃない?私達ってそんなに弱く見える訳?」

 一方で鈴仙とてゐは額に青筋を浮かべている。
まぁ、目の前で相手が勝つ気満々ではムカつくのも当然と言えるが……。

「私達相手に一人で戦う事になったのを後悔させてやるわ!!」

 鈴仙とてゐも妖力を高め、妖夢を睨みつける。

「あら?下っ端と思ったら結構妖力高いわね。油断しちゃダメよ、妖夢」

「分かっています……さぁ、来い兎共!まとめて相手になってやる!!」

 幽々子の言葉に少しだけ冷静さを取り戻し、妖夢は臨戦態勢に入る。
しかしその時……

「いや、全員1対1だ」

「へ?」

 一人の女性の声と共に、先程一夏が開けた穴から大剣を背負った千冬が現れた。

「私が加われば4対4。これでお互い文句はあるまい」

「千冬姉!?」

(な!?一夏さんの姉だと!?)

 留守番していたはずの姉の姿に一夏は驚愕する。
その一方で別の意味で驚愕しているのは妖夢だ。まさか想いを寄せる相手の身内が出てくる事になろうとは想定外どころの話ではない。

「何でココに?……っていうかどうやってあの竹林を?(あの竹林相当入り組んでて普通なら絶対迷うぞ……)」

「妙な予感がしてな……お前の魔力(匂い)を辿ってきた」

「マジかよ……」

 開いた口が塞がらない一夏。
それを他所に千冬は幽々子と妖夢に近寄る。

「一夏の友人らしいな。私は織斑千冬、一夏の姉だよろしく頼む」

「西行寺幽々子よ、冥界で管理人をしているわ」

 千冬の挨拶に幽々子は割りとフレンドリーに返し、軽く握手を交わす。
そして肝心の妖夢だが……

「魂魄妖夢と申します!一夏さんにはいつもお世話になっています。よろしくお願いしますお義姉さん!!」

 『お義姉さん』の部分を強調して妖夢は千冬の手を握った。
この時、千冬の脳内で何かが『ピキッ』とヒビが入る音がしたのは気のせいではない筈だ。

「そうか……こちらこそよろしく頼む(なるほど……コイツが予感の大元か)」

 千冬は妖夢の手を思いっ切り握り返しながら答えた。

「グ……(こ、この女……)いえいえ、こちらこそ」

「いやいやいや、こちらこそ(あのメイドと同類だな、この小娘……)」

 お互い表面上はにこやかに話しているが内心では完全にお互いを敵として認識していた。

「あらあら……(これは……面白くなってきたわね)」

 唐突に始まった女の戦いを見つめながら幽々子はニヤニヤと笑みを浮かべた。



 しかし、このコント染みた会話もそれまでだった。

「ッ!?……危ねぇなオイ」

 一夏達目掛けて永琳から一本の矢が放たれ、一夏はそれを掴み取った。

「悪いわね。でもそろそろ漫才も終わりにしてもらえるかしら。こっちもさっさと事を済ませたいのよ」

「それもそうだな。それじゃ……そろそろ始めるとするか!」

 気合と共に一夏は永遠亭の面々に飛び掛り、空中から急降下しながら拳を振り下ろす。

「ッ!……へぇ、なかなか楽しめそうじゃない」

 一夏が放った拳は床を砕き、砕かれた床から一夏の魔力弾が間欠泉の如く吹き荒れる。
それを回避する輝夜達4人に一夏達はそれぞれの相手へと襲い掛かる。





「貴様の相手は私だ!妖怪兎!!」

 大剣を振りかざしながら千冬は鈴仙に斬りかかる。

「そんじょそこらの妖怪兎と一緒にしないでくれる。これでも私は玉兎よ!」

 振り下ろされた剣をバックステップで避けながら鈴仙は指先から妖力の弾幕を撃つ。

「生憎、私は幻想郷(ココ)に来て1ヶ月半なのでな。見分けなどつかん」

 迫り来る弾幕を前に千冬は剣を振るう。
振るわれた剣からは魔力の斬撃が大きな砲弾となって撃ち出され、鈴仙の銃弾型の妖力弾を吹き飛ばす。
その光景を目の当たりにして鈴仙は舌打ちしながら魔力弾を回避する。

「凄いパワーね。でもそんな荒削りの魔力じゃ私は倒せないよ!!」

 ニヤリと笑みを浮かべる鈴仙。その瞳は徐々に赤みを増していき、血の様に深い紅の瞳へと変化していく。

(!?……何だあの眼は………いかん!なにか不味い予感がする)

 IS選手時代に培った洞察力と直感が働き、すぐさま千冬は鈴仙の瞳から目を逸らす。
そんな千冬の様子に鈴仙は僅かに驚くがすぐにその表情は笑みに変わる。
まるで勝利を確信したように……。

「勘のいい奴ね……でももう遅いわ、ちょっとだけでも見てくれれば波長を狂わすには十分!」

 千冬と距離を取り、鈴仙は一気に勝負をつけるべく懐から一枚の札を取り出す。

「即効で決める!『散符・真実の月(インビジブルフルムーン)!!』」

 スペルカードを発動し、鈴仙の体から全方位に無数の魔力弾が撃ち出される。
迫り来る弾幕を目で捉えながら千冬は回避行動に移るが……。

「っ……何だ!?」

 突如として弾幕が視界から消え去る。
驚きから一瞬千冬は呆然とするが直後に正気を取り戻す。

(音は聞こえる……という事は弾は消えたんじゃない、見えないだけだ!……っ!?)

 千冬がスペルカードの特性を察した直後、再び視界に弾幕が映りだす。

「痛ッ!消えたり見えたりと……ええい、まどろっこしい!!」

 紙一重で身を捻り千冬は弾幕を回避するも僅かに頬を掠め、頬の皮の一部が裂けて傷口から血が流れる。

「よく避けたわね。でも次はどうかしら!?」

 再び魔力弾が生成され、全方位めがけて発射される。
そのスピードと数は先程のものを上回る程だ。

「クソ!『斬符・樹鳴斬!!』」

 鈴仙の弾幕に対抗すべく千冬も自らのスペルカードを繰り出す。

「ハァアア!!」

 剣から放たれる魔力の拡散レーザーとそこから飛び出す魔力弾。
それが鈴仙の全方位弾幕とぶつかり合い、相殺する。

「やるじゃない、ただの力任せじゃないようね。でも拡散させたのは失敗ね、その程度の弾なら十分相殺できる!」

「クッ!」

 勝利を確信したように口元に笑みを浮かべ、鈴仙は妖力弾を撃ちだす。しかも今回は一発だけではなく何発もの連射を加えている。
これは千冬にとって非常に不利な攻撃だ。
何故なら千冬のスペルカード『樹鳴斬』は一夏や魔理沙のような回避能力の高い相手を想定して開発した広範囲攻撃であり、鈴仙の『真実の月(インビジブルフルムーン)』は弾幕を全方位に撃つ事でバリアの役目を果たしており、それに加えて鈴仙の能力『狂気を操る程度の能力』で視界の波長を狂わされるという幻惑効果もある技だ。
弾幕戦においてこのような撹乱戦法に不慣れな千冬にとって鈴仙は非常に相性が悪い相手だと言わざるを得ない。

「クソ、相性最悪とはこの事か。だが嘗めるなよ……ISを乗り回していた頃は剣一本でどんな相手にも勝ってきたんだ。相性如きで勝負は決まらないという事を教えてやる!!(……とは言っても、どうすれば良いんだこの状況は?)」

 建前だけ強がりつつも勝算が浮かばない自分に千冬は苦笑いしながら鈴仙の弾幕を回避し続けるのだった。
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