東方蒼天葬 弐

□椛VSラウラ 白狼の咆哮
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 椛とラウラ……方や静かに、方や激しく、しかしながら確かな敵意を以って二人は睨み合い、相対する。

「貴様は以前からずっと気に入らなかった……あの男(一夏)の仲間というだけでも腹立たしいのに、赤の他人の癖に偉そうな台詞を並べて……何様のつもりだ!!」

「そっちこそ何様のつもりですか!?国を代表する軍人でありながら私怨で動き、挙句の果てには他人への危害を加えることも厭わない……お前に軍人の資格なんて無い!織斑先生の恥晒しはお前の方だ!!」

 ラウラの罵声に椛も罵声で返す。
形は違えど組織の中で生まれ育ったという共通点を感じさせない程に二人は相容れない。
やがてそれは互いに強い敵愾心を生み、今まさに激突しようとしている。

「貴様などにこれ以上でかい顔をされて堪るか……教官から直々に鍛え抜かれた私の力の前では貴様など足元にも及ばんということを教えてやる!」

「はっ!一夏さんに手も足も出ずに叩きのめされた人が言う台詞ですか!?」

「ほざけ!!」

 罵声を皮肉で返され、ラウラは激昂しながらプラズマ手刀で襲い掛かる。

「っ!」

「馬鹿め!」

 襲い掛かるラウラの一撃を椛は跳躍して避けてみせる。
そんな椛を嘲笑うようにラウラはAICを起動させるが……。

「AIC以外に芸が無いんですかアナタは!?」

 静止結界が発動されるよりも先に椛の手に持ったハンドビームガン『白雷』が火を吹き、ラウラを襲う。

「チッ!」

 ラウラは舌打ちして椛に発動したAICを解除して身をかわす。
AICは実弾などには効果覿面だが、ビームなどの光学兵器には効果が薄い。
仮に椛をAICで捕らえてもビームによるダメージを受けてAICが解除されてしまえば元の木阿弥だ。

(クソ……ビーム兵器を装備していたのか。だがハンドガンなら対処のし様はある)

 苛立ちつつも冷静さを保ち、ラウラは一度距離を取ってレールカノンを展開してハ
ンドガン特有の射程の短さを突く戦法に移る。

「キレてばかりかと思ったら、少しは知恵も回るようですね?それなら……!」

 距離を取るラウラに対して椛は砲撃を避けつつ、白雷の銃身を取り外す。
そして銃とは別に長い筒のような物を展開して、重心を失った白雷に取り付ける。
筒は長い銃身と化し、白雷はハンドガンからライフルへと姿を変える。

「銃身の換装型か!?」

「これなら射程は五分。西部劇の真似でもしますか?」

「いちいち癪に障る態度を取って……!」

 目を鋭く細めてレールガンを発射し続けながらラウラは椛との距離を詰め直す。

(やはり下らん小細工など無用だ!奴が反撃ない状態で静止結界に捕らえてしまえば私の勝利は確実。要は奴に隙さえ作らせれば勝てる!!)

 ある程度距離が詰まった時、ラウラは武装をワイヤーブレードに切り替える。

「喰らえ!」

「そんな物!」

 ラウラはワイヤーブレードを椛目掛けて発射し、一方で迫り来るワイヤーブレードに対し、椛は両腕に円形のシールドを一つずつ展開してそれを投げつける。
投げつけられたシールドはフリスビーのように回転し、盾から八方手裏剣の様に刃が飛び出した。
ワイヤー装着型万能シールド『白舞(はくぶ)』だ。

「ヨーヨーの化け物か?その武器は……」

 ブレードと盾がそれぞれぶつかり合って互いに勢いが殺され、それぞれワイヤーを引き戻して再び体勢を立て直す。

「そろそろ……マジで行きますよ!」

 ニヤリと笑みを浮かべ、椛は自らラウラとの距離を詰めにかかる。

「一気に決める!それっ!!」

 ラウラへと真っ直ぐ前進しながら椛は再び白舞を投擲する。

「愚図が!同じ手を二度も喰らうか!」

 ラウラは白舞の一撃を冷静に回避しながら白舞のワイヤーを狙い、ブレードを発射してワイヤーを切断してみせるが……。

「二度も同じ手を使う愚図がいますか!?」

「何!?」

 直後にラウラの目が驚愕に見開かれる。
回転する盾の表面に六つの穴が開き、そこから弾丸がガトリングの様にばら撒かれる。

(バルカンだと?こんな物まで内蔵していたのか!?……待てよ、さっき最初に盾(これ)を使った時にバルカンを同時に使っていたら……)

 初見ではワイヤーブレードで勢いを相殺した事で自分は盾への警戒心を緩めていた。その状態でこれを使われていたら避けるのは難しかっただろう……。

(こ、コイツ……私で遊んでいたというのか!?)

 屈辱から来る怒りにラウラは一瞬だが表情を歪める。そしてその一瞬を椛は逃さない。

「気付いたようですね。だからこそ、思考に気を取られて隙が出来る!!」

「しまっ……グァァァ!!」

 僅かに出来たラウラの隙を突き、椛は白蘭鋼牙の斬撃を連続して叩き込む。

「せぇぇぇい!!」

「ガァァァァ!!!!」

 そして締めの一撃とばかりに回し蹴りがラウラの顔面に叩き込まれ、ラウラの身体がシュバルツェア・レーゲンごと数秒程の間宙に浮き、そのまま地面に叩き付けられた。

「カハッ!……く、クソが」

 並みのパイロットなら既に気絶している筈のダメージを受けてもなお、ラウラは立ち上がるし。
憎しみに染まった目を血走らせ、ラウラは執念で椛に近づく。

「負けられん……負けるわけにはいかないんだ!教官の顔に泥を塗ったあの男、そして奴と馴れ合う貴様にもだ!!」

 息も荒くラウラはプラズマ手刀で椛を襲う。
だが体力を消耗したラウラの一撃など椛に通じる筈もなく、軽々と避けられてしまう。

「顔に泥を塗った……本当にそれが理由ですか?」

「何だと?」

 椛からの指摘にラウラは思わず動きを止めて椛を凝視する。

「一応アナタ達の様な専用機持ちの事はある程度調べています。アナタが織斑先生からドイツ軍で鍛えられた事も……それで一夏さんを逆恨みしてるしている事もね」

「逆恨みだと!?教官の名誉を汚した男を恨む事が逆恨みだと!?馬鹿も休み休み言え!!」

 自身の怒りを逆恨みと断言され、ラウラは言葉を荒げる。
そんなラウラにも椛はまるで動じない。ただひたすら冷め切った視線を向ける。

「一夏さんがの一件が無ければアナタは織斑先生と出会う事も無かった……逆に言えばアナタが織斑先生と出会えたのは一夏さんという存在があったから。これで一夏さんを恨むって、逆恨み以外の何だと言うのか?結局アナタ、嫉妬してるだけでしょ?それを如何にもな理由で正当化して……私情で動く癖して本音はひた隠し……余計ムカつきますよ。個人技だけの不適格軍人が!!」

「黙れぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 自身に対するの正論を混じえたヒートアップする椛の批判にラウラはキレた。
怒りに身を任せてプラズマ手刀を振るい、我武者羅に椛をAICに捕らえようとする。

「殺す!お前だけは絶対嬲り殺しにしてやる!!」

「……無様な」

 静かにはき捨て、椛は両手に数発の手榴弾、そして顔には顔の上半分を覆う大型のゴーグルを展開し、ラウラの攻撃を上手くかわしながら手榴弾を周囲にばら撒いた。

「これで終わりです!」

 ばら撒かれた手榴弾から大量の煙が椛とラウラを包み込む。
スモークチャフ『幻霧(げんむ)』……ハイパーセンサーすら無効化するナノマシンを含んだ煙によって相手の視界を遮断する煙幕爆弾だ。
そしてそれを唯一無効化する高感度索敵ゴーグルを装備する事によって戦況を大幅に有利に持ち込む武装だ。
もっとも椛は元々鼻が利き、千里眼(試合中は使う気は無いが)を持つためゴーグル無しでも十分有利に持ち込めるが……。

「な、何だこの煙は!?ま、まずい……!」

 煙で遮られる視線にラウラは一瞬で自身の圧倒的ハンデに気付く。
AIC発動に最も重要かつ必要なのは集中力と敵の姿形のイメージ、それにはどうしても目に依存しやすくなってしまう。
その視界を遮られたという事はシュバルツェア・レーゲン最大の武装たるAICが潰された事に他ならない。

「言った筈ですよ。これで終わりだと……」

「!?……グガァァ!!」

 動揺するラウラの背後から声と共に白蘭鋼牙の一撃が見舞われ、椛は悲鳴を上げるる。

「怯えろ!」

「ぐあっ!」

 そして続けざまに叩き込まれる二度目の斬撃をラウラは成す術無く喰らう。

「竦め!!」

「ガッ!!」

 続けざまにアッパーカットのように繰り出される白舞での殴打にラウラの身体はまたしても宙に浮く。
そして椛はとどめに、数日前に追加された白牙最大の武装を展開する。

「機体の性能を活かせないまま散っていけぇーーっ!!」

 展開されるは白舞とは違うシールド。ハモニカ型ビーム砲内蔵シールド『ディバイダー』だ。
そして椛の咆哮と共に、ビームの雨が弓矢のようにラウラを打ち据えた!

「ギャアァァァ!!」

 ビームに飲まれ、シュバルツェア・レーゲンのシールドエネルギーはおろか、ラウラの体力は完全に底を突いたのだった。

「自分の心にも向き合えない者に、力を誇示する資格は無いんです。人と向き合うという事を覚えて出直す事です」

 地に倒れ伏すラウラを確認し、椛は静かにラウラに背を向けたのだった……。



(負け、たのか……?私は、あんな奴に……こんなにも無様に……)

 椛からかけられる言葉を耳にしながらラウラは悔しさの余り涙を流す。
悔しい……負けた事も、何一つまともに言い返せなかった事も、一矢報いる事も出来なかった己の無様さも……。

『汝、力を欲するか?』

 突如として頭の中に声が響く……。
まるでラウラを何かに誘うかのような囁き声で……。

(寄越せ、私に……私に力を!!)

 ラウラはその囁きに魅入られた。
そして手を伸ばしたその時…………。

『そんなダサいの使うの?そんなんじゃ面白くないよ』

 突然頭に響く声が変わる。
まるで子供のようなふざけた口調でラウラの中に何かが入ってくる。

「ッ…あああああぁぁアァアァ亜ぁぁっ亞あぁぁああAaaアアアァァッッ!!!!」

 そして、ラウラの世界は闇に包まれた……。
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