東方蒼天葬 弐

□魔性の力を打ち破れ!!一夏と椛の鉄拳!!(前編)
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 椛とラウラの戦いとほぼ同時刻。
一夏は職員室にて、椛から送られてきた女尊男卑主義の生徒たちによる襲撃の証拠を提出していた。

「……これは、取り繕い様も無いな。十分な証拠だ」

 レコーダーから流れる襲撃犯の言葉に職員室内が重苦しい雰囲気になる中、千冬は苦々しく口を開いた。

「犬走に喧嘩を売ったボーディヴィッヒも処罰の必要はあるが、集団で襲撃をかけた連中はそれ相応に重い対応が必要だな」

「それなら、すぐに何人かで止めに行かないと!」

「いやボーディヴィッヒはともかく、他の連中は既に鎮圧されているし、私一人で十分だ」

 慌てふためきながら席を立ってアリーナに向かおうとする真耶だったが、千冬がそれを遮った。

「一夏、一応武術部の方にも事情聴取の必要があるからお前も来い。一応お前が部長なんだからな」

「了解」

 二人は共に席を立ち、アリーナに向かうため、職員室を出ようとするが……

『ッ…あああああぁぁアァアァ亜ぁぁっ亞あぁぁああAaaアアアァァッッ!!!!』

 突如としてレコーダーから響くラウラの絶叫。
その尋常ではない様子に職員室内の全員が驚愕する。

「っ!?」

(こ、これは……魔力だと!?)

 絶叫と共にアリーナの方角から爆発するように溢れだす禍々しき魔力。
それを感じ取った一夏と千冬はすぐさまアリーナへ駆け出した。





「こ、これは……」

 目の前で起こるラウラと鈍く黒い光を放つシュヴァルツェア・レーゲンの様子に椛は狼狽しながら僅かに後退さる。
目の前で直接感じる分、椛はハッキリと理解出来る。目の前の少女と彼女が纏う機械の鎧が出す魔力の圧倒的なまでの禍々しさが……。

「ッ!……全員ココから離れて!!コイツはやば過ぎる!!」

 硬直していた思考をフル回転させて椛はセシリア達武術部メンバーと襲撃を行った女子グループに対して怒鳴りつけるように叫ぶ。
魔力を持ったISの力が振るわれれば、ココにいる者達に対抗手段は無い。
それどころか、下手をすれば死人が出てしまう……!

『ウ…ギ、ガァァァァアアアアア!!!!!』

「ヒッ……」

 椛の呼び掛けも虚しく、ラウラは凄まじい瞬発力で困惑に動けなくなっていた襲撃グループの一人に急接近し、その腕でなぎ払った。

「グェエエエ!!?」

 攻撃を受けた女子の身体からベキリと嫌な音が鳴る。肋骨がへし折れたのだ。
直後の襲撃グループの女子達から悲鳴が上がり、彼女達は半狂乱になって逃げ惑う。
そんな様子を尻目に、ラウラは自身が振るった腕を見詰める。

「…………」

 数秒前までの絶叫が嘘の様にラウラは静まり返る。
だが、その瞳には先ほど椛と戦った時以上の狂気を秘めている。

「…フ、フフ………ハハ、…クハハ!…………………………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」

 そして直後に狂ったように大口を開けてラウラは嗤い、己の力に打ち震える。

「これだ、この力だ!!これこそ私が求めていた力だ!!!!この力さえあれば教官を取り戻せる!!兵器と玩具の違いも解らんクズ共を粛清できる!!そして、織斑一夏、犬走椛!!奴らにも勝てる!!」

 そして全身で喜びを表すかのように嗤った後は、先程重傷を負わせた女へ視線を向けると再び腕を振り上げる。
さながらその姿は死刑の執行人だ。

「い、嫌ぁぁ!!殺さないでぇぇぇーーー!!!!」

 標的にされた女生徒は震え上がり、必死に助けを求めるようとするが自身の味方だった筈の仲間たちはラウラの凶行とも言える行為に恐れをなして逃げた後だ。
もはや自分の味方など一人もいない状況に女生徒の心は絶望に埋め尽くされる。

「喜べ。貴様はこの私による粛清の第一歩だぁーーーーー!!!!」

 泣き叫ぶ女生徒を嘲笑いながら腕を振り下ろし、その身体を押しつぶそうとするラウラ。
だがそこに一人の人影が割って入り、女性とを抱え上げてラウラの攻撃を回避する。

「貴様、何の真似だ?」

「ケッ!こんなクソ女でも、目の前で殺されちゃ夢見が悪いんだよ!!」

 女生徒を救ったのは敵であるはずの弾だった。
更には弾の言葉に続くようにアリーナの出入り口付近から二組の射撃が飛んでくる。

「ッ……貴様ら!」

「何が粛清ですか!力に溺れてこんな凶行に走るなんて……!!」

「弾!早くそいつから離れて!!悔しいけど、私たちじゃそいつを倒せない!!」

 訓練で磨いた洞察力と直感を働かせ、セシリアと簪の二人はラウラと距離を取りつつ、弾と女性とを逃がすべく援護射撃を行う。
そして同時にもう一つの人影がラウラに上空から襲い掛かる。

「アナタの相手は、私です!!」

「犬走ぃ……!良いだろう。まずは貴様からだぁ!!」

 白蘭鋼牙の一撃を腕でガードし、ラウラは撤退する弾達を無視し、椛への殺意を露にしながら襲い掛かった。

「ハァアアアア!!」

「ッ!?」

 プラズマ手刀を構え、椛に襲い掛かるラウラの攻撃をかわす椛だが、プラズマ手刀はアリーナの地面に大きなクレーターを作った。その大きさは通常の通常のISのパワーで出来る物の比ではない程の巨大さだ。

「(なんてパワー……まるで鬼がISに乗ってるような破壊力。油断すればやられてしまう!)弾さん達はその連中の拘束と安全圏まで退避を!織斑先生たちを呼んできてください!!それまで私が何とか抑えます!!」

「分かった!無理はするなよ!!やばくなったらすぐ逃げろ!!」

 暴走するラウラとシュヴァルツェア・レーゲンの他の追随を許さぬパワーに戦慄を覚え、椛は弾達に指示を出しつつラウラに対抗する手段を頭をフル回転させて考える。

(とにかく、まずはAICを封じる!)

 敵の圧倒的なパワーの前に一撃の直撃が命取り、もっとも厄介なのは動きを拘束されると感じ、椛は幻霧による煙幕を張ってAICを封じる。

「チッ、また煙幕を……!?」

 煙幕による目くらましに舌打ちするラウラだったが、すぐに表情は驚愕と喜びに変わる。

「わ、分かる……分かるぞ!貴様がどこにいるのか分かるぞ!!」

「!?」

 視覚ではなく聴覚、直感、第六感が研ぎ澄まされ、ラウラは椛の気配を捉えることが出来るようになっている自分に気付き、狂ったように笑みを浮かべて椛に襲い掛かる。
椛はそれを辛うじて回避するも、狂戦士と化したラウラに戦慄を禁じえない。

「フハハハ!!これ程の力とは、もはやAICなど使えずとも問題無い!!基本装備だけでも貴様を十分に殺せる!!」

(パワーだけじゃなくてスピードまで上がっている。このまま長引いて彼女が私の動きに目を慣らせば不利……。となれば、少しでも多くのダメージを与えて短期決戦で決めるしかない!)

 覚悟を決め、白蘭鋼牙とディバイダーを構え直す椛。
そして静かに一瞬だけラウラを睨み、煙に紛れながら一気に距離を詰め、ラウラもそれを感じ取って迎え撃つ。

「喰らえぇぇ!!腐れ軍人がぁ!!」

「死ねぇぇ!!犬走ぃぃぃっ!!」

 両者共に怒りの咆哮と共に繰り出される白蘭鋼牙とプラズマ手刀が交差するその刹那、不意に椛は刀を自ら落とし、ラウラの手刀を装甲を纏ったその腕で受け止めた。

「何ぃっ!?」

「ウグゥッ……貰い、ましたよ!!」

 ベキベキと音を立ててへし折れる己の腕をまるで気にしないかのように

「貴様!腕を犠牲に……!?」

「今のアナタにまともにぶつかってもパワー負けは目に見えてる。だったら腕の一本ぐらい、くれてやりますよ!!」

 文字通り白い狼を彷彿とさせる獰猛な笑みを浮かべ、椛はラウラの懐に入ることに成功し、残った左手に展開されたディバイダーの砲門を開き、ゼロ距離からラウラにディバイダーの砲撃をぶち込んだ。

「グァアアア!!!!こ、こんな……私は、また……!!!!」

 断末魔にも近い叫び声と共に美ディバイダーのビームにラウラは飲まれ、シュバルツェア・レーゲンは見る影も無くボロボロに大破し、地面に叩きつけられた。





 時間を遡る事数分前、先行してアリーナに向かった一夏と千冬だったが、アリーナに入った時、それは現れた。

「っ!?……コイツら、あの時の!」

 二人の前に通路の天井を突き破って現れたのは先のクラス対抗戦で乱入した謎の無人IS。
それが2機、一夏と千冬の前に立ち塞がる。
さらに状況は更に悪い方向へ流れ、二人の背後のアリーナの出入り口……正確にはアリーナの周囲全体がバリアで覆われて出入りできなくなってしまっている。

「嵌められたって事か……」

「一夏、コイツらは私が抑える……先に行け!」

 打鉄を纏った千冬は一歩前に出てブレードを構えながら一夏に声を掛ける。

「千冬姉……」

「ラウラを頼む。……アイツを助けてやってくれ」

「任せろ!」

 千冬の言葉に頷き、一夏は敵機を振り切ってアリーナの中央……椛とラウラが待つ場所まで向かう。
その場には千冬と無人機のみが取り残される。
無人機は一度は位置かを追おうとするも、千冬はそれを阻止して無人機を睨みつける。

「貴様らと遊んでいる暇は無い。速攻で終わらせてもらうぞ!!」

 ブレードを握る手に力を込め、千冬は2機の無人機に向かって剣を構えた。





「ウ……グ……ガァアアああああぁぁぁぁぁっ!!」

「……嘘、でしょ?」

 目の前の光景に椛は絶句する。
先程ゼロ距離からの砲撃で間違いなく倒したと思われたラウラだったが、なんと彼女は三度立ち上がった。
身に纏うISは更に変形し、まるで中世の鉄騎兵のように全身を覆い尽くし、原形をとどめているのはプラズマ手刀とワイヤーブレード、そしてレールガンという武器だけだ。
だが、驚くのはそこだけではない、椛が与えた攻撃による傷がなぜか完全に塞がっているのだ。
搭乗者のラウラがどうなのかは定かではないが、これだけは言える……最早シュバルツェア・レーゲンはもシュバルツェア・レーゲンではなくなっている。
目の前のISは最早原形すら留めぬISの名を借りた搭乗者を操る魔性の鎧に成り果ててしまっているのだ。

「せっかく、腕一本折ってまで倒したと思ったのに、こんなの無いでしょ……」

 膝を付きながら苦々しくそう呟く椛。もう彼女に戦う力はほとんど残ってなかった。

「犬、走ぃぃっ!!」

 最早意識があるのかも怪しい声でラウラは今まさにプラズマ手刀を椛の脳天めがけて振り下ろそうとしている。

(ココ、まで……なの?)

 目の前で振り下ろされる凶刃にも近い一撃に椛は硬く目を閉じる……が、しかし

「何とか、間に合ったな……!!」

「い、一夏……さん」

 寸での所で一夏のDアーマーの手がシュバルツェア・レーゲンの手刀を防ぎ、椛を救った。

「大丈夫か、椛?」

「わ、私は大丈夫……じゃないですけど。他の皆は?」

「今、魔理沙や他の皆が地中を掘り進んでアリーナへの道を作ってくれている。弾達はそこから脱出させる予定だ。……よくコイツを抑えてくれたな。後は任せろ」

 椛の問いに頼もしい笑みを浮かべて答え、一夏は静かに暴走するラウラを見据える。

「ラウラ、決着(ケリ)つけに来てやったぜ……!!」

「織斑、一夏ァァ……!!」

 第2ラウンド、開始……!!

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